生まれて初めて書評で紹介した本

北村浩子さま

前略 先日は(も?)酔っ払って記憶が全くないですが、あまりお話できず残念でした。飲むと3回に1回はつぶれる。しかも法界悋気を撒き散らす。もしくは所かまわず爆睡する。タチが悪いったらありません。
お酒はおいしいし好きだけれども、もう少し飲み方を考えないと友達なくすなぁと。何度も反省しているのですが。
私が生まれて初めて雑誌で紹介したのも、そういえば酔っ払い小説でした。恥ずかしいですが、全文載せてみます。

 本を読んでいて、周囲に嫌がられることがある。いつでもどこでも熱中すると何も見えない、聞こえない。話し掛けられても生返事。ときどき一人で笑ったりしていて非常に不気味らしい。読む本がないとイライラして、手当たり次第に文字を読む。広告でも説明書でもお構いなしだ。ヘアトニックまで飲んでしまうアル中と同じではないか。中毒は基本的にはた迷惑で、本人の身体にも悪い。だが小説にするには健康よりも不健康の方が面白いようなのだ。
 『今夜、すべてのバーで』は壮絶な実録アル中小説である。著者自身を彷彿とさせる主人公が入院するところから話は始まる。このままでは死ぬと言われた直後にこれが最後の酒だとワンカップを病院の前で飲んでしまうのだから相当なものだ。尿はコーラ色、肝臓はフォアグラ状態、黄疸で目まで黄ばんでいる。読んでいるだけで具合が悪くなりそうだ。果たして彼はアルコールから足を洗えるのか? シリアスだが可笑しく、幻想(幻覚?)文学のようでもある。膨大なアル中に関する薀蓄も、実体験があるひとが書くだけに迫力があって読ませる。脳が破裂したから拾うのを手伝ってくれと大騒ぎする男の話は中でも強烈。
 これ一冊であなたも「らも中」に。巻末の対談(お相手は山田風太郎氏)も面白いので是非読んでいただきたい。
「IN☆POCKET」(講談社)2000年8月号掲載

書店員がロングセラーの文庫を紹介するというコーナーでした。およそ8年前。まさか中島らもがこんなに早く亡くなるとは想像すらしていません。〈小説にするには健康よりも不健康の方が面白い〉なんて呑気なこと書いてるし。「死」をすごく遠いものだと感じていたんでしょう。
いま読むと面白いと感じる部分が違うかもしれない。読み直してみたいなぁと思いました。
北村さんはずっとラジオで本を紹介していますが、初めて取り上げた本は何ですか?

石井千湖

今夜、すベてのバーで (講談社文庫)

今夜、すベてのバーで (講談社文庫)