『世界一ぜいたくな子育て』


世界一ぜいたくな子育て 欲張り世代の各国「母親」事情 (光文社新書)

世界一ぜいたくな子育て 欲張り世代の各国「母親」事情 (光文社新書)


子育て中の友人に薦められた光文社新書。めっちゃくっちゃおもしろかった。育児関連書をもっと読もうと思わせてくれた一冊。
註*のっけからかなり長文です、ごめんなさい。次回からは手短に。

在欧の著者が第一子をパリで産む際に「あなたは母乳育児を〈選択〉したんですよね?」と何度も尋ねられたところから沸き起こった違和感に端を発している。いまやユニセフやWHOが推奨する母乳育児だけど、フランス人女性の間では〈不衛生〉〈貧困〉〈未開〉〈自己犠牲〉というイメージが根強く、抵抗がある母親は少なからずいるという。日本では当然のように母乳育児を選択する人が多いので、それに倣った著者はその差異に興味をもつ。

母乳育児をする/しないってのは、ひいては「どんな女性になりたいか」という女性観につながるのではということで、日本・アメリカ・ヨーロッパ諸国の子育てをした一般人女性10人にインタビューをし、各々の母乳観・育児観・女性観を洗い出すという内容。

ワーキングマザーもいれば専業主婦もいる。らくらくと母乳育児をこなした人、大苦戦した人、はなからミルクオンリーにした人、子どもを持つことができず養子を迎えた人。いろんなケースがあり、また印象論だけじゃなくて、ちゃんとデータや文献からの引用もあって、信憑性があって頼もしい。

自分が渦中に身を投げてからはじめて痛感したのだけど、日本における母乳育児ってのはちょっと異常なまでに〈正しい〉育児方法として認識されてるといっても過言ではないだろう。妊婦雑誌とかで母乳育児の〈正しさ〉をたたきこまれると、産後に母乳が出ないというだけで、人間として欠陥があるかのように思わせるくらいなのよ、ほんとに。

「ここ数年来、世界を席巻する『母乳育児』信仰もまた、勝ち組女たちの特権であり精神的支柱であり、そして差別化の道具である」

というフレーズがあったけど、まったくもってそんな感じ。でもこの本に載ってた厚生労働省のデータだと、完全母乳育児をしてるひとは44%と書いてあって「なんだ、それっぽっちなの?」と拍子抜けしてしまった。

自分自身はいまは母乳だけで育てているけど、ここにたどりつくのにはほんとにハゲるかと思うほどに苦悩した。知り合いの「産後1ヶ月以上経ってから完母になったよ」という言葉にすがるようにして、毎日毎日ネットや雑誌で情報を得たり、泣けば授乳を1日20回以上繰り返したり、頭の中は「母乳」の一語だけだった。

あの当時は「ミルクを足す」ということがものすごく罪深く、挫折感を伴う行為で、なかなかできなかった。でもお腹は空いてるから、子どもは泣く。家族がまったく何の気なしに「あ、ミルク足すの?」なんて聞こうものなら、「なんか文句あるわけ?」とか噛み付いたりしてたなあ。

私の産院は超人気産院だったのに、実は全然母乳奨励ではなくて、産んだ当日からがんがんミルクを与えてたし、産婦たちにも授乳後にミルクを足すことを当然のように指導していた。退院時に「完全母乳にしたいんだけど」と助産婦さんに相談しても、「人それぞれだから」と具体的な指導がまったくなくて、「なんだよ、セレブ産院のくせに母乳指導してくんないのかよ」とかなり不満で、次に産むことがあれば、は絶対母乳奨励産院にしようとまで思ってた。

でも今考えると、やたら母乳奨励をしないことで、出ないお母さんを追い込まないようにしてたのかもと思い至った。『赤ちゃん学を知っていますか?―ここまできた新常識』という本は、これもおもしろかったんだけど(じきにアップします)、「母乳の出ないお母さんはいない」と断言してあって、その一文が頭から離れなかった。かつての私を含め母乳育児に悩む人が陥りがちなのは、母乳が出てるかどうかにこだわりすぎて、要は健全に育ってれば母乳だろうがミルクだろうがよいって思えなくなるところ。あの病院は、そういうスタンスだったんだよなあとか。

これ、もっと早くから読んでおけばよかったよ。そんなに気にしなくてよかったんだよ、って。

あと、母乳の話だけでなくて、ベビーシッターやナニーに預けて自分の時間を確保するお母さんがヨーロッパではわりとフツウなのに、なぜ日本では浸透しないかとか。「VERY」ママたちはいったいどうやってあの生活レベルの高さを維持しながら子育てしてるのか?といった話も。

しかし、日本の育児の「根性至上主義」みたいなのはなんなんだろう。「痛みをわかってこその出産であって、無痛分娩とか帝王切開とかを最初から選択するなんてありえない!」とか「子どもが欲しがるときが授乳時。夜中に何度起きようが、ひたすらおっぱいあげ続けて! 寝不足になるのは当然」とか「お菓子はやっぱり手作りで!」とか「子どもを預けて外出なんて! 子どもより自分の欲望を優先するなんて信じられん!」とかいう風潮はやっぱり根強くある。

でも、本書に出てくるお母さんたちは、そんな根性論を鼻で笑うかのように、合理的に育児をしてて気持ちがいい。別に普通分娩でも手作りおやつでもなんでもいいけど、人にそれを強要しないでくれ〜〜〜って実際思いました。欧米の例に倣うのは、いまの日本じゃ難しいところはあるけど、これ読むと肩の荷が軽くなります。

あ、そうそう。北欧は子育てしやすいって評判で実際そのとおりなんだけど、

(北欧で)子育てが一段落した女性たちを見てごらんなさい。贅肉はつくわ、髪はぼさぼさだわ、肌はかさかさだわ、で、もう全然女じゃないんだから。子供、子供って、大切にするのはいいけど、その代償があれじゃあね

っていうフランス人女性の発言がすごい印象的。

本書の副題は〈欲張り世代の各国「母親」事情〉で、美貌もカネもやりがいある仕事もシュミも、ステキなダンナもかわいい子どももぜーんぶ欲しいんだよ!っていう、現代先進国女性はどうすんの?っていうのもひとつのテーマです。

子育て中の人とか、子育てに興味のある人はもう必読。でも惜しむらくは一番読んで欲しい、子育てに苦悩している人は、本を読んでる時間も精神的余裕もない!ってとこか。


気になったフレーズメモ↓

お洒落とか快適さとか便利さといったことを、どうしても手放したくない女たちのための、新しい育児スタイルの発明

母親先発組の中に、私はただ一人として羨ましいとか素敵と思えるような「女のあり方」を見つけることができなかったのだ