愛すべきダメ男

北村浩子さま

こんばんは、石井です。すっかり日にちがあいてしまいましたね。

この10日ほど、ダメ男についてあれこれ考えながら本棚を眺めていました。日本の小説だと太宰治の諸作品、三島由紀夫『春の雪』(新潮文庫)、町田康の諸作品、中島京子FUTON』(講談社文庫)あたり。海外ものだと、ウラジーミル・ナボコフ『ロリータ』(新潮文庫)、J・M・クッツェー『恥辱』(ハヤカワepi文庫)、エマニュエル・ボーヴ『ぼくのともだち』(白水社)。ミステリーだと、クリストファー・ムーア『アルアル島の大事件』(創元推理文庫)などがダメ男小説に当てはまるでしょうか。いざ選ぶとなると、この人、ホントにダメ男に分類していいのかなあと自信がなくなったりもするんですけど。

北村さんが挙げていた小説のなかで大好きなのは、『お目出たき人』の<自分>です。妄想するときのエラそうな口調と、現実のダメさ加減のギャップに爆笑しっぱなし。ついに失恋を認めざるをえなくなったときに詩を読む場面もかわいい。

<自分>のような非モテ系ダメ男を描きながらも、ハッピーエンドな話で印象に残っているのが近藤ようこの短篇漫画、「かわいいひと」(筑摩文庫『見晴らしガ丘にて』に収録)。大学で文芸部に入っている岸本は、冴えない容貌と唯我独尊な性格で、部内の女子には嫌われています。そんな岸本は美人の後輩・今日子のことが好き。彼女を誘っては、自分の文学論をとうとうと話してみせる。知識は付け焼刃、意見は全部他人の受け売り。それで啓蒙しているつもりなんです。つきあってもいないのに、結婚することまで脳内では決定済。お目出たき人ですね〜。そんな岸本に対する、今日子の態度に意表を突かれました。こんな愛もあるかもなと。

いま適当に思いついたんですが、ダメ男には、ジャイアン型(俺様)、スネ夫型(ウソツキ)、のび太型(ヘタレ)の3タイプがあるような気がします。西村賢太の主人公のように、3タイプの要素を兼ね備えたハイブリッド型も多いですね。愛すべき存在になるのは、血中のび太度が高いダメ男じゃないでしょうか。嫌悪感をもよおすのは、笑えないジャイアン型かな。すぐに例が浮かばないんですが。

まだまだダメ男について語ってもいいんですけど、今日、丸の内オアゾ丸善に行ったら、ブラックなんとかっていうアンチ泣ける本フェアをやってたんですよ。選者はその店に来た出版社社員や作家。本屋に乱立する「号泣しました」ポップに異議申し立てするのが主旨らしいです。これは楽しそう〜。というわけで、絶対に泣けないけど感動する本を教えてください。

あ、そうそう。最近、「かもめの日」(黒川創著/「新潮」2月号掲載)という小説を読んだんですけど、主にFMのラジオ局(たぶんモデルはJ-WAVE)が舞台になっているんですよ。番組制作の現場や、アナウンサーの仕事(シフトのことなんか)についてもわりと詳しく書いてあります。北村さんが読んだらどう思うかなあと気になったので、今度お会いするときに持って行きますね。

石井千湖

お目出たき人 (新潮文庫)

お目出たき人 (新潮文庫)

見晴らしガ丘にて (ちくま文庫)

見晴らしガ丘にて (ちくま文庫)