1月29日(火)晴れっぽい曇り

T誌の原稿を書いて送稿。
イアン・マキューアン『土曜日』(新潮社)読了
優秀な脳神経外科医である主人公(48歳)が土曜日の明け方、寝室の窓から火を噴きながら空港を目指す飛行機を目撃する――。そんな不穏なエピソードから幕を開けるこの小説は、主人公男性とその家族に起きたたった1日の出来事が描かれているだけなのに、読後とても大きな物語を伴走してきたかのような深い満足が味わえる。
ほんのささいな、と思っていた出来事が予想外に大きな波紋をもたらしていくことになる主人公の個人的な1日を描いた、というと超傑作『贖罪』(新潮社 4月には映画が公開されるけど、そっちもすっごく良い出来映え)の第1部が思い浮かぶが、この小説では、そうした個人的な生活や記憶の中に、自分という存在が今・此処にあるためにどれほどの生と死が繰り返されてきたのか、9・11以降の世界は一体どうなっていくのかといった普遍的な問いかけが非常に自然なかたちで織り込まれているのが特徴的。ちょっと、ヴァージニア・ウルフの『ダロウェイ夫人』ぽい。
これまたどこかで紹介するつもりなので詳述は控えるけれど、読み進むほどに自らの来た道・行く道に思いを馳せずにはいられなくなる、21世紀の古典と称賛すべき成熟度の高い大人のための小説なんである。

土曜日 (新潮クレスト・ブックス)

土曜日 (新潮クレスト・ブックス)