文庫解説が好き。(2)
北村浩子さま
続きです。(1)で取り上げた文庫解説だけを集めた本を読むと、作品と解説者の組み合わせって大事だなあと思います。雑誌や新聞の書評と違い、解説は作品とセットで読まれる。だから、
解説は、著者を勇気づけて気持ちよくさせ、なおかつ読者をおもしろがらせる必要がある。〜『解説屋稼業』(鹿島茂著、晶文社)より〜
のでしょう。著者を勇気づけるためにプライベートで親交の深い書き手が選ばれることも多いですが、単なる仲間褒めにしか見えないと、読者は引いてしまいます。解説者は、ある程度の距離感、緊張感を持ちながら、著者に思い入れがある人だといいのかなと。
最近出た文庫で、この組み合わせはぴったり! と思ったのが、先ごろめでたく復刊された倉橋由美子『聖少女』(新潮文庫、解説:桜庭一樹)です。
- 作者: 倉橋由美子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1981/09/25
- メディア: 文庫
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いま、血を流しているところなのよ、パパ。なぜ、だれのために? パパのために。そしてパパをあいしたためにです。もちろん。
未紀のノートの冒頭の文章。処女喪失を描いて鮮烈な一節を桜庭さんは引用し、少女の脳内世界にとって近親相姦とは何かを読み解いています。それは、罪によってままならぬ現実や俗物たる大人たちの頭上を越え〈偽の神〉になるための〈秘密結社めいた、暗黒のままごと遊び〉であり、父親は〈手に手を取って堕落してくれる、ただ一人の友〉だと。
このくだりを読むと、桜庭一樹の、特に『私の男』の読者は、否応なく『聖少女』を読みたくなるはず。“パパ”と“おとうさん”のニュアンスの違いを考えてみるのも楽しいです。桜庭さんは『聖少女』のすごさを伝えるのに徹していて、自分の作品には一言もふれていませんが、『聖少女』の読者も桜庭一樹の作品を読みたくなるでしょう。これだけ『聖少女』を愛し、魅力的に紹介してみせる人はどんな小説を書くのかと。2作とも未読、という人は両方読みたくなるのです。もちろん。
さらに桜庭さんが『聖少女』とともに三大〈危険で、おかしくって、畏れを知らず、ルナティックな、そして永遠の、素晴らしき哉、少女小説!〉としてタイトルを挙げている『第七官界彷徨』(尾崎翠著、ちくま日本文学全集『尾崎翠』所収)と『甘い蜜の部屋』(森茉莉著、ちくま文庫)も読みたくなると思います。ちくま文庫版の解説者は両方とも矢川澄子で、これまた名解説なのですが、さすがに長くなりすぎなのでこの辺で。
- 作者: 尾崎翠
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2007/11/20
- メディア: 文庫
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- 作者: 森茉莉
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1996/12/01
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石井千湖