vol.1『奥義直伝』加藤鷹(KKロングセラーズ)

奥義直伝

奥義直伝

ブログタイトルを決めてから早やひと月。書いてなーい、手を付けられなーいのプレッシャーにじりじり胃をやられつつ、食欲は衰えず。トマトチーズあられ(期待してたほどおいしくない)をおともに、やっと口火が切れます。

♯ふだんの仕事ではなかなか書評できないラインナップで行きたいと思い、まずは加藤鷹の『奥義直伝』を選ぶことにする。AVと縁のない女子にも名前は知れ渡っている著者が、<AV男優生活20周年記念>と銘打って出した本書。私もライター人生20周年に突入するな、と無用な親近感を持つ。
著者は、あまりにも非人道的になりつつあるAV界のマシンセックス化を憂いている。どれだけコスった、シゴいたという摩擦速度を競うマシンセックスはやめ、宇宙を感じるような本物の快感体験をしよう!と誘ってくれているわけである。
日本人は経験則に弱い。私も弱い。6000人の女性たちとまぐわってきたという御大の言葉には、それだけで意味があるのではないかと期待が高まる。実際、女性である私から見ても、当たってる、いいこと言ってる! と拍手したくなる指摘も結構あるのだ。
たとえば、愛液の量とオルガスムスはまったく関係がない、の箇所。<愛液の量によって快感を見極められるとか、オルガスムスを迎える際に愛液の質が変化するとか信じている人もいるようですが、僕の経験から言わせてもらうとまったく関係はありません。(略)「ビチョビチョに濡れているから感じているというのが通用するのは、AVの世界だけです。現実には愛液の量などを気にかけるより、愛撫のときに女性がみせる反応をじっくりと観察したほうがよほどいいのではないでしょうか>。そーそー。過去にもあったあった、大したテクもないくせに、「いいの? すんごい濡れてるよ」とか男にささやかれて、うっざーと思ったこと。
それから、「イカない女性などいない! 愛撫の極意はズバリ、「ねばる」こと」の箇所。<様々なマグロ女を相手にしてきた僕が二〇年間の経験から導き出した「イカない女性をイカせる愛撫術」を教えましょう。それはズバリ、「ねばる」ことです。オルガスムスに導けないという男の人に限って愛撫が短いということがあげられます。せっかく女性のテンションが上がってきたところでやめてしまったり、他のポイントにいってしまっているのです>。よし、鷹、よく言った! ヘタなヤツほど、あちこちさわって舐め回して気持ちワルイのよね。
他にも、<オルガスムスとは究極の「同期(リンク)体験」です。相手とひとつになる、ということを一度でも感じた女性は絶対に男の目を見つめます><もし、僕のほうほうでオルガスムスへ導けたからといって、毎回それが通用するとは限りません。仮に同じ女性であっても、その日の体調、精神状態によってセックスも変わっていきます。(略)セックスのやり方など無限に存在するのです>などなど。
俗説や誤解から生まれる誤った思い込みを正そうというこうした姿勢は、買いたいと思う。
が、もんのすごく間違った思い込みを植え付けそうな箇所もいくつかあり、ひやひや。女性がオルガスムスに近づいてくると呼吸が変わる、という指摘はいいとして、それは「(女性がのぼりつめていくと子宮が上に上がっていき、)上に収縮した子宮が横隔膜を圧迫するからだ」という理屈はどうなのー? 子宮と横隔膜の間にある臓器はどうなるの、ねえっ! そう、この人、科学リテラシーが低いみたいなんですの。しかも、20年分の精力を注ぎ込んだわりに、アンアンの「セックス特集」とナレッジに関しては大差ない感じがするのね。
とはいえ、男性から女性へのていねいなマッサージの方法が書いてあったり、親切なつくりにはなっているんです。DVDも付いてるしね。私自身は、マニュアル世代と呼ばれた古い世代の男性が、女性のために一生懸命デートコースを考えてくれたり、いまはなき『ホットドッグプレス』という雑誌でセックスをいろいろ研究してくれたりしたことを、「あれって、とてもよかったのではないか、いまよりずっと女の子を大切にしようという心意気があったではないか」と、個人的には思っているので、こういう本を巷の男子もたまには立ち読みくらいしてみればいいと思う。
「オルガスムス取得7日間エクササイズ」という副題のようには簡単にオルガスムスになんて導けないと思うけど、それくらい奥深いものなんだと思えばいいかな。
実用度★★ 説得力★★★ 加藤鷹節★★★★