イヴァンの四月馬鹿

北村浩子さま

子どももいないのに、授乳クッションを持っています。
読書用に。肘と脚の間にクッションがあると、本を持っていても楽なんですよね。本はベッドでも居間でも風呂でも読みます。トイレだけはなんとなくイヤなので持ち込みません。喫茶店で読むのも好きです。

人と比べて多いのか少ないのかわからないですが、この1か月間に買った本を数えたら33冊ありました。サピエンスというメーカーの横に積める本棚を何本か積読専用にしてあって常に満タン。3月になってから1日1冊ペースで読んでいて、減るどころか増えてます。本を読むと、そこからまた読みたい本が出てくるので。

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最近読んだ新刊の中で北村さんが読んでなさそうなものというと……。難しいお題です。だって「BOOKS A to Z」で紹介された本を見てみると、小説だけじゃなくて絵本もノンフィクションもあるし幅広いじゃないですか〜。もし読んでたらごめんなさい。とりあえずもうすぐ4月なのでこの本を。ヨシップ・ノヴァコヴィッチの長編小説『四月馬鹿』です。著者はクロアチア人ですが、20歳のときにアメリカに移住し、小説は母国語ではなく英語で書いているんだとか。

物語の舞台は旧ユーゴスラヴィア。主人公のイヴァン・ドリナルはクロアチア人で、1948年4月1日生まれです。同じ年に(あとで調べたのですが)旧ユーゴ共産党スターリンによってコミンフォルムから追放されました。つまり、旧ユーゴが社会主義国の中でも独自路線を歩み始めた年にイヴァンは誕生した。訳者あとがきにも書いてあるように、今は亡きユーゴスラヴィアを体現したキャラクターなんですね。

イヴァンは幼い頃から自分は特別な存在だと思っていて、国家を熱烈に愛しています。でもその愛はピントがズレている。例えば旧ユーゴでは絶対権力者であるチトー大統領への手紙に〈閣下が汝の小さな指一本で(中略)塩を雪に溶かすように、われらを土にめりこませるあいだも、その名を唱えたいと思います〉と書く。褒めてるんだかけなしてるんだかわかりません。成長してからも、もう少しで念願の医者になれるはずだったのに、チトーを暗殺するという友人の冗談をただ聞いていただけで強制収容所送りになったり。意気込んでやることなすことが悲惨で滑稽な結果に終わります。

冗談を聞いただけで逮捕される。警察官をからかった友人が目の前で簡単に銃殺される。クロアチア人なのにユーゴ連邦軍に徴兵され、独立宣言したクロアチア軍と戦う。彼が生まれ育った国の現実は、エイプリル・フールのほら話だったらどんなにいいだろうと思わされるほど過酷で不条理です。それをシニカルでユーモラスな語り口で描き、豊かなイマジネーションも感じさせるところがいいんですね。私が特にすごいなと思ったのは、イヴァンが脱走兵になる「荒れ地を跳ねる心臓」という章。

クレーターには水がなみなみと溜まり、皮膚がざらざらした灰色のカエルが、鼓動する心臓のように飛びだした。心臓は戦争のただなかにある男たちの体から離れ、呪われた風景をうろついた。灰色の地面から、こんなにもたくさんの心臓が、突然、飛びだすのを見て、イヴァンは心が乱れた。彼の目には、空中に浮かぶまで見えなかったので、地面がいらない心臓を吐きだして、また泥のなかに飲みこんでいるように感じられたのである。

グロテスクで怖いのに幻想的で美しい。カエルを見るたびに、心臓の形を思い出してしまいそうです。

四月馬鹿

四月馬鹿

次のお題ですが、春といえばデビューの季節かなと。新人作家の本でどうでしょうか。いつまで新人なのかわからないんですけど、なんとなく3年くらいですかね。2005年〜2008年までにデビューした作家さんの本で、これはオススメというものを教えてください!

石井千湖