2月26日(火)聖少女は新しいの巻

文学賞メッタ斬り! 2008年版』の対談のまとめが続々と仕上がってきて、その手直しをする合間に映画『つぐない』(原作はイアン・マキューアンの『贖罪』新潮文庫 傑作なので読むが吉)に関する原稿を1本上げて、送稿。
明日の対談に備え、新潮文庫から復刊された倉橋由美子の『聖少女』を再読。
第138回直木賞を受賞した桜庭一樹『私の男』からさかのぼること42年も前に、父娘の禁断の愛を描いて刺激的な傑作を当時29歳の倉橋さんが書き上げていたことや、21世紀の今も新鮮な読み心地を失っていないことにあらためて驚嘆。
物語は語り手の〈ぼく〉が、仲間と強盗をした帰り、未紀という名の不思議な少女を拾うシーンから始まる。この出会いの後、高校生だった〈ぼく〉は大学に進学。学生運動に身を投じ、未紀とはたまに会う程度だったのだが、出会いから6年後、〈ぼく〉は病室で彼女と再会することになる。ポルシェを運転していて、トラックと衝突。同乗していた母親は死亡し、未紀は頭を強く打ったため記憶を失っているのだった。そんな未紀から、「ここにある自分が書いたんであるらしい日記を解読してほしい」と、〈ぼく〉は1冊のノートを託される。〈いま、血を流しているところなのよ、パパ。なぜ、だれのために? パパのために、そしてパパをあいしたためにです〉、日記はそんな驚くべき文章から始まっていて――。
ここまでわずか12ページ。まさに“つかみはOK”というべきスピーディな展開で、読者はあれよあれよという間に未紀ワールドに引き込まれていってしまうのだ。未成年なのに、同性愛者やオシャレな業界人が集うゴスっぽい雰囲気の喫茶店を経営し、朝起きるとレモンのしぼり汁とウイスキーを垂らしたソーダ水を飲み、〈ぼく〉や同じ年の美少女の気持ちをもてあそぶ未紀のキャラクターが蠱惑的。これが本当に1965年に書かれたんですかと、ページを繰るごとに瞠目させられる斬新なディテールと文体を備えているんである。倉橋由美子は新しい! 『暗い旅』も早く復刊していただきたいっ。

聖少女 (新潮文庫)

聖少女 (新潮文庫)