たまには本も…『曲芸師ハリドン』

カメ日録(筆者の日々のあれこれ)

曲芸師ハリドン

曲芸師ハリドン

なんだか妙に忙しいのと、目がもうろくしてきたせいで、すっかり読書しなくなっているんです。それでも、ときたま、好きな本を紹介しようかと。
これは、子どもの本の売り場で見つけた、子どもの本らしくない、子どもの本。
象牙色にセピアとスモーキーパステルを使った表紙のセンスからして、子どもらしくない。
表紙には、一輪車に乗ってジャグリングをしている奇妙な男の子の絵。彼が主人公のハリドンです。本屋でこの本を見つけたとき、こちらを見ている彼の、あまりにも子どもらしくない冷めた視線にクラッときました。で、つい、ふらふらと買ってしまいました。

容貌が醜くて、小さいときから一人で大道芸をして生きてきた。悪い人間にたくさん出会ってきた。だから他人は信じない。他人とは関わらない…。ハリドンは、表紙の絵の視線そのままのクールなニヒリスト。ある夜のこと、唯一心を許して一緒に暮らしている大切な友、<船長>が、出かけたきり家に帰ってこない。いてもたってもいられず町へ捜しに出たハリドンは、あるトラブルに巻き込まれてしまいます…。

ハリドンがさまようのは真夜中の北国の港町。<冷たい空気が秋と港のにおいを運んでくる。眼下にひろがる町の通りに人影はなく、人々が寝静まっているのがわかる。ところどころ明かりがともる窓は、暗闇の中で謎めいた赤い光をはなっている> そして、中年の女主人が営むジャズ・バーや、きらびやかなダンスホール、目をぎらつかせた人々の怒声が飛び交うカジノ…。なんともいえない、濃厚な夜の匂いが漂ってきます。 子どもの本なのに。
それに、世の中を斜に見ているハリドンに加え、脇役たちは汚い手を使うのも平気な、ひと癖ふた癖ある連中。お互いが、相手を丸め込もうと様子をうかがったり、見下して軽蔑したりで、交わす会話は、はぐれ者同士のひねたやり取りばかり。
かと思うと、その辛口の会話の中に、孤独な人間の人のつながりを求める哀しさや滑稽さが見えたりもするんです。なんかねえ、ちょっとハードボイルド。子どもの本なのに。
もお、クールなハリドンがいいんですよ。タフでね。結構一途で。で、野良犬が出てきます。小心者のくせにちょっと図々しくて嘘つきでセコいんだけど、憎めない。一生懸命ハリドンの機嫌をとって、くっついていこうとするのが段々いじらしくなるんですが、ハリドンときたら、まあ、冷たい冷たい。野良犬は嫌いだってんで、追っ払うことしか考えていません。いつまでたっても仲良くならない彼らにやきもきしてるうちに、情が移ってきちゃう。
W.アイリッシュとチャンドラーと妖怪人間ベムスヌーピーを足して4で割ったような魅力…わからない?…忘れてください…。

とにかく、一目ぼれしたら、ほれた通りの本だったのでした。
子どもだけに読ませとくのはもったいない子どもの本です。