vol.2実践イラスト版『スローセックス完全マニュアル』

実践イラスト版 スローセックス 完全マニュアル

実践イラスト版 スローセックス 完全マニュアル

 一時期、売れに売れていた<スローセックス>シリーズの一冊。というか、アダム徳永氏の著作の中では、本書がもっとも活用度が高そうなので、ま、買うならこれかなと思います。もちろん、買わなくても大丈夫。ここで全部ポイントはバラしちゃいます。
 2006年秋の発売直後から、売れ筋ランキングの常連だった『スローセックス実践入門』(講談社+α新書)。新書というスタイルの勝利か(値段も手頃で、「ちょっと学術入ってる?」との誤解も生みそう)、セックスマニュアル系では過去のヒット作が束になってもかなわないほどの人気である。代々木忠の『プラトニック・アニマル』も売れてたけど、足下にも及ばないというか(読み物としては、こちらの方がずっと面白いです)。
 セックスマニュアル本って、どれもほとんど切り口が同じ。「本当のオーガズムとは何か?」という抽象論と「どうすれば彼女をオーガズムに導けるか?」の“コツ”と称する愛撫法&体位解説で、フルコースという印象だ。
 なのに、徳永氏の著作が飛び抜けて共感を得ているのは、氏が<ジャンクセックス>と命名した、セックスライフの現状批判が的を射ていたからかもしれない。
 まず、著者が問題視するのは、男性諸氏が「これでふつう」だと思っているセックスにかける時間の短さ。著者はセックススクールを開講しているのだが、そこに来る男性にアンケートを採ったところ、前戯15分+挿入5分=トータル20分が平均値だったらしい。男性が射精に至る通り一遍のプロセスをなぞるだけの20分セックスでは、「女性を満足させられない」とまずは叱るのである。
「セックスでもっと気持ちよくなりたいなあ」と思っていて、しかもその不満の原因が明らかに“パートナーの欲望優先のセックス”(射精できれば満足、疲れることはしたくない等々)になっているからだと感じている女性は、この出だしを読んだだけでかなり溜飲が下がるだろう。
 実際、女性の側も、男性の射精がフィニッシュの合図だと考えている人は多い。もし、自分はイケてないのに、彼の方は「あっ……(射精)、ごめん」の展開が来てしまい、なのにフォローしてくれなくても、我慢してしまうケースは決してめずらしくない。
 そういうときに「愛し合っていればイケなくてもいい」「愛が感じられればそれで満足」と愛を免罪符に使うことも多いと思うけれど、<愛を過信してはいけない>と釘を刺しているところがナ〜イス。深く愛し合っているカップルでも、テクニックや知識が不足したセックスではお互い満足できるとは限らないし、逆に稚拙なセックスが愛し合っているカップルの関係を揺るがすこともあると説く著者。愛に重きを置きすぎると、なかなかエクスタシーが得られなかった場合、「もしかすると、本当はパートナーを愛していないのかな? 心底では愛されてないのかな?」と自分や相手の心を疑ることにもなりかねないから。確かにねー。
 本書の第1章は、そんなおおもとの理論が展開されているわけだが、もっともいい提言は、<“射精の放棄”から本当のセックスは始まる>の箇所だと思う。

私はずっと腰を動かしているわけではありません。つながり合い、会話を楽しみながら、ときには冗談を言い合ったりしながら、自然に身を置くような、たゆたうようなゆっくりした動きのなかで、愛する女性と一体となった幸福を楽しんでいるのです。

一方通行的なサービスタイムが長くなっただけでは、互いに幸福を感じることはできないのです。肝心なのは愛戯と官能の“双方向性”です。

 双方向性の快感を見つけろ、という意見には私も賛成。そして、そのヒントはこちら。

目の前に一億円の壺があるとしましょう。1億円の価値があると言われれば、誰だって触ってみたくなります。そして、触るときは、誰もが、壊さないように、傷つけないように、そっと触りますよね。これと同じことが、女性のデリケートなカラダに対してできないのは、男性が、女性の本当の価値の大きさに気づいていないからです。

 その通り! 好きな相手と愛し合える幸運をつかんだのなら、それを奇跡のように感じて大切に思えば、自然と思いやりある愛撫になるし、相手の快感を引き出したいと思うはず。KYなセックスなんてあり得ないわけ!
 もっとも、言うは易く行うは難しだから、こうした指南書が手を変え品を買え出てくるのだろうが……えっ、そんな能書きはいらんから早くテクニックを教えろ? そういうせっかちな男性ほど、この章を心して読んでくださいね。
 さて、第2章以降は、具体的なテクニック紹介に突入する。2章は男性から女性への愛撫、3章は体位、4章は女性から男性への愛撫で、5章は早漏克服法というラインナップ。
 2章のキモは、アダムタッチと著者が呼ぶ超ソフトタッチの解説だ。タッチの加減、方向性、じらしのポイントなど、イラストも詳しくて、わかりやすい。ただ、こういうのは本当に個人差だと思うので、全女性にこのソフトタッチや舌での愛撫が“効く”かは微妙なところ。
 3章は基本の6体位(女性好みの)と、それを応用した<体位のルービックキューブ>を図説。……体位のルービックキューブ? 6色を自在に動かすパズルであるところをもじってるのかしら……。
 4章は女性誌のセックス特集なんかで書かれているレベルで、新味はないし、新しいテクニックも学習できなかった。残念。
 基本的には、これまでのセックスマニュアル本の延長にある本だけど、性にオープンになってきた現代だから、「実は悩んでるんだ」ということもオープンにしやすいわけで、そんな悩める男女にフィットしたのが本書なのだろう。
 いちばんいいのは、カップルで読むこと。「ちょっと試してみようか?」とバカバカしさも含めて楽しめたら、これも意味ある書物と言えるでしょう。

セックス向上★★★ オリジナリティー★★ 万人向け★★★