「第3回ほぼA賞」実況中継4

【『切れた鎖』田中慎弥

(ここで遅れてニックさんが到着。)

がく「ニックさんが来るまでに3つ終わったんですけど、その3作についてニックさんの講評を訊いてみましょうか。」

ニック「『小銭〜』って前作の『どうで〜』とまったく同じ内容でつまらなくない、っていうのが凄いと思った。で、印象に残った単語が『ワンピ』(笑)。」

「あああぁ〜!そうそう!ワンピ、ワンピ!!」

じょり「ひでんかもワンピについて同じように書いていたよね。」

ニック「ワンピって言葉を使うことによって賢太のズルさとキモさが増幅されてたまらない!いいよね、とっても!」

がく「『空で歌う』はどうでした?」

ニック「あ〜。一言しかコメントが無いなぁ……。『ずるいふたりの話しかぁ』としか印象が無い。もうひとつの『木曜日に産まれた』も読んだんだけど、そっちの方が芥川賞ノミネートにふさわしいんじゃないかと思った。候補作はちょっと薄っぺらいよね。スカスカ。」

がく「『カツラ〜』についてはどうでしょう?」

ニック「読み始めた最初から違和感があったんです。この主人公って、読者から見たら一人称は『オレ』じゃなくて『僕』だと思うんですよ。『僕』っぽいキャラなのに『オレ、オレ』っていうこの読者との齟齬感を、もしナオコーラが意図的にやっていたとしたら凄いしたたかだと思った。本人は『オレ』だと思っていていても、外から見たら『僕』性に属している男って実はいっぱいいるんだよね。そこをナオコーラがわかっていたとしたら凄いよ、やっぱり。」

こきりこ「一人称については意図的に考えている可能性はありますね。」

じょり「そうかな〜?意図的かなぁ?」

ニック「で、主人公のがたのに似ているっていう話題は盛り上がったの?」

たの「似てないですよ!違いますよ!」

ニック「どこが違うの?」

たの「俺はもうちょっとナヨナヨしてますよ!」

がく「より低いところにいくのか、君は(笑)?」

ニック「たのはこの主人公をどう思ったの?」

たの「共感ゼロです!馬鹿じゃね〜の、こいつ!って思いますよ!」

「ええぇ〜!」

たの「この主人公は、作られたナヨナヨなんですよ!」

こきりこ「真のナヨナヨをわかってねぇ!と(笑)。こいつには真の男のナヨナヨがわかってない、と(笑)!」

たの「そそそそうなんですよ!女の作った男のナヨナヨなんですよ、これは!!」

「(大笑い)」

たの「ナオコーラの女視点で書かれたものを読んでみたいと思いましたね。」

がく「じゃ、次いってみましょう。何にしましょうか?」

たの「え〜と、『切れたクスリ』……」

「クスリじゃないよっ!」

てづ「さっきからドラッグがきまってるでしょ!?」

がく「ニックさんとあさてぃさんが0点だけど、どこがダメでした?」

ニック「コンクリートの湿っぽさとか、湿度についての描写は良いと思ったんだけど……。登場する子どもって幼稚園児だよね?なんか話をうまく進めるためだけに作られたキャラクターに思えちゃうんだよね。作為性を強く感じた。頭で作られたものになってしまっている感がある。」

あさてぃ「私は、桜井家の母の所業が有り得なくないか?って思ってね。」

ニック「浮気した娘婿に塩を擦り込んだりする母!?」

じょり「名家といっても成り上がりじゃないですか。ああいう酷い所業をするというのは実際にあると思うし、リアリティがあると思う。書き方は物凄く古臭いですけどね。」

たの「母もキャラとしては最高なんですけどね(笑)。」

あさてぃ「イヤぁなことをしっかり書く、ということと、読者にイヤな感じをもたせる、ということは作者の中である程度の協調性を持たさないといけないと思うんですよ。でないと今作のように読者の好き嫌いをはっきり分ける結果になると。」

たの「場面場面では面白い部分はあるんですけど、全体を通すと面白味が半減しちゃうんですよ。なんか惜しいんだよな〜。」

あさてぃ「(話の)素材は悪くないんだよね。どう書いたら面白くなったのかな?」

じょり「差別される人がする差別の方がより酷い、というのを何かで読んだことがあるんだけど、そういう部分をもっと書いてあればよかったと思う。」

ニック「がくちゃんは3点だけど理由は?」

がく「ん〜、坦々と暗〜くドゥーミィな感じが漂っているのが、最後の最後で面白いっていうか意外な展開になるじゃないですか。そこが良かった。暗い中にも光りがあった、みたいな感じで、暗いままで終わらせなかった。ある種の予想の裏切りがはまりました。」

あさてぃ「私ははまらないんだよなぁ。」

じょり「差別についての描写はリアルだと思いますよ。私も地方の出身だけど、ああいう差別の実態はありましたもん。本当にあるんですよ、この作品に描かれているような世界は実際に。」

たの「本家・分家とかの空気を吸ったことがある人はよくわかると思いますよ。」

じょり「リアルなんだけどもうちょっと突っ込んで書くか、逆にソフトに書くかして欲しかった。中途半端かもしれない。」

がく「ラストに梅代おばあちゃんが『望、望』って呼ぶじゃないですか。初めて名前で。そこはどうとらえるんですかね?ま、その望が今、目の前にいる男なのか存在しない男なのかはわからないんですけどね。すべては不確かなんだけど。俺はそういうところも含めてこの作品が好きでした。」