『きっと、大丈夫』

きっと、大丈夫 (角川文庫)

きっと、大丈夫 (角川文庫)

バイブを買いに』などで知られる作家・夏石鈴子のエッセイに、人気写真家・平間至の写真が添えられた1冊。

エッセイのメインテーマになっているのは、自身の結婚や育児、身の回りのできごと。彼女はダンナさんとは婚姻届を出していない事実婚状態で、子どもをふたりもうけている。また、作家でありながら日ごろは正社員としても勤務している。いろんな顔を使い分けているのだから、毎日がめまぐるしく飛び去るように過ぎていってるだろうに、生活を見つめる目はしっかりと開かれていて、穏やかで、そしてどんな瑣末なことも見逃さないシビアさも持ち合わせている。

彼女の観察眼の鋭さは、たとえのうまさに生きてくる。「母乳社員」というエッセイでは、出産後はじめて黄色い初乳を搾り出すシーンで〈ちょっと、膿を出すのに似ている。〉と、知らない人にとってはちょっとギョッとするような描写をしている。そうそう、〈おっぱいは、出るのではなく、出すもの〉なんだよねえ。黄色くてぺたぺたしている初乳をはじめて見た時、なんじゃこりゃーと驚きつつも面白くて搾るのをやめられなかった。そして途中で「あ、こんなに搾ってたら赤ちゃんが飲む分が枯れちゃう」とか思ってたなあ。

その初乳とやらは3日間くらいしか出ない。いつのまにか、いわゆるふつうの母乳に変わっていく。それは〈白い涙のように〉勝手にぽたぽた出てくるんだよ、また。ほんとに涙みたいに滴り落ちるのね。うむうむ。

実はこの本を読んだのは、出産はおろか結婚すら想像できないような独身のころだったのだけど、生まれてから日が浅いわが子を抱いた感触を〈搗(つ)きたてののし餅を肩に乗せて〉いるようだと書いてあったのがとても強く印象に残った。赤ちゃんに馴染みのなかったわたしは、ここを読んだ瞬間にものすごくリアルに赤子の感触を自分のカラダに感じてしまったのだ。

実際、自分が子どもを産んで、かつて読んだ本のことなどすっかり忘れて不慣れな育児に四苦八苦していたある日、子どもを抱いた瞬間に、この〈搗きたてののし餅〉という表現を突然思い出した。だって、ほんとに熱くてのっぺりしてて湿り気を帯びていて、それはまさしく〈搗きたてののし餅〉以外の何者でもなかったんだもん(←いや、赤子なんだけどね)。搗きたてののし餅なんて触ったことないんだけど、そのたとえのぴったりハマり具合にいたく感動してしまった。

最後にこれはシャレでもなんでもないんだけど、前述したとおり出産なんて全然考えられなかったはずだった私ですが、この本を読み終えたときに「うーん、確かになんか子どもを持っても『きっと、大丈夫』な気がするなあ」とどこか安堵した覚えがある。別に子育てのノウハウが書いてあるわけでも、100%ハッピーな話が書いてあるわけでもない。だけど、どこかしら背中にそっと手を添えてくれるような優しさがこの本には含まれているのだ。