一人暮らしのアキレス腱断裂 ―車椅子と松葉杖のときには…―

カメ日録(筆者の日々のあれこれ)

車椅子や松葉杖に頼っていたとき、町中でたくさんの方に助けていただきました。自分が使ってみて初めてわかったこともずいぶんありました。今度、自分に誰かの手伝いをできる機会がきたときのために、心に留めておこうと思ったことを書いておこうと思います。

<車椅子のときに>
ちょっと坂になっているところなど、押してもらうともちろん助かったのですが、普通の歩道でも車椅子で走ってみるとけっこう苦労するところがたくさんあるのでした。最初の頃は申し訳ないので遠慮していたんですが、後からは、苦労する場所のときは、「押しましょうか」と言っていただくと、ありがたく押してもらっていました。
・歩道の段差を乗り越えるのが一度でできないことが多く、押してもらって助かりました。車椅子を押して段差を乗り越えるときは、車輪の内側にバーがあるので、それを片足でちょっと踏むと前輪が浮いて段差が乗り越えられます。
・車椅子は前輪が小さくて、それが段差を乗り越えにくいのです。慣れないと、数センチの低い段差でも引っ掛かったりします。後ろ向きになって後輪から乗ると、案外簡単に乗り越えてしまうんですが、歩道は方向転換するスペースがないのが大変。
・横断歩道のところの段差は、たいていかなり低いのでそのまま乗り越えられますが、十字路などでは、歩道がカーブして斜めになっていたりするので、見極めて、前輪がなるべくまっすぐ段差にあたるようにしないと、片方の前輪が乗り越えそこねて傾いたりします。
・歩道はたいてい、建物側から車道側への傾斜があって、それがきつい場所はまっすぐ走るのは大変。押してもらえると助かりました。
・歩道の傾斜があるところは、押してくれる方がいても、うっかりすると低い方に曲がっていってしまいます。ゆっくり行かないと、なかなかむずかしい。
・車道側は傾くし、建物側は店の看板など置いてあったりしてどちらかに寄るということができず、歩行者の方、じゃまでごめんなさいと思いながら真ん中を走ることになってしまったりします。

よく言われることですが、デコボコしていたり、自転車やら看板やらいろいろな物が置かれていたり、歩道を手動車椅子で進むのはほんとに大変だとよくわかりました。
押してもらえることは、少しの間でも十分ありがたいことでした。

<松葉杖のときに>
・建物の入り口などのほんの少しのスロープでも、油断すると杖の先が滑ってバランスを崩します。
・マンホールの蓋や、ゴミなどを踏んだだけでも、油断するとバランスを崩します。
でも、これらは大体使う前から予想されたこと。予想外だったのは、手助けしてもらったときが意外に危ないということでした。
昔、友人が使っていたときに支えようとしたら「触らないでいい」と言われたのですが、松葉杖はほんとうに手助けの難しい道具でした。思わぬささいなことでバランスが崩れてしまうのです。


・支えようとした人が腕や松葉杖に触ると、それだけでバランスを崩すときがあります。
・片足がケガのとき、健康な足側から支えてしまうと、ケガの足の方に傾いてしまうので、なお危ないのです。
・急に立ち止まるとバランスをくずします。なので、すれ違うときにかすめるように通られたりすると、びっくりして止まろうとしてしまうので危ないのです。
・振り返ろうとするとバランスをくずすことがあります。後ろから声をかけられて後ろを見ようとするのが結構危ない。
・ドアを開けようとして押し始めたときに、ドアを誰かが急に支えたり、開けてくれたりするとつんのめってバランスをくずします。

これらはみな、周りの方が助けようとしてくれたときに起きがちです。助けてもらう側も慣れていないから、どうしてもらうと一番いいのかとっさにわからない。ぐらりとなった瞬間に頭が真っ白になってしまいます。私も、バスに乗るのに苦労していたら、中年の男性に後ろから急に腕を支えられて傾いて、思わず「さわらないでください!」と言ってしまったことがありました。おじ様せっかく手助けしようとしてくれたのに本当に申し訳なかったなあ、傷ついちゃっただろうなあ。大反省…。でもその瞬間はパニクってしまっているのですよねえ…。
なので、松葉杖の人を手助けしようとするときは、基本的には、「サッと駆け寄って」とか「黙ってスッと支えて」というような形は避けた方が安全かも、なんです。普通だと、スマートでかっこいいんですけどね〜。助けてもらう側ときたら、人の気配に驚いて止まっただけでぐらっとしちゃう、本当に厄介な松葉杖。
助けようするときは、手をだす前に当人の視野の範囲に入って声をかけたりして、当人に考える時間を与えてからゆっくりと…という感じでしょうか。
松葉杖の人がちょっと苦労しているときは、困って、固まってしまっているように見えるでしょうが、本人の感覚の中ではやじろべえがグラついている真っ最中。そのグラつきが安定しないと次のことができないのです。グラついている最中に人に触れられると、揺れがぶれて対応できなくなってしまうという感じでした。
もし本当にグラついていて危ないというときは、ケガの足側からがっちり支えた方が助かるように思います。私の経験では、周りの人にはどうも、ケガ側はそっとしておかなきゃいけない、ケガの足に触っちゃいけないという潜在意識があるのか、健康な足側から支えようとする人が多いような感じでした。
ただ、それも中途半端にすると反対側の松葉杖が滑って、仰向けになってしまう可能性もあります。支えようとした人も一緒に転んでしまったりするおそれもあります。
松葉杖の人を支えようとするときは、本当に本当に注意してくださいませ。

松葉杖で外歩きし初めてしばらくは、助けてくれようとする方の行動にかえってビクビクしていたのですが、途中から頭が切り替わりました。
松葉杖の私が困った様子をしていたら、「きっと誰か、助けようとする人が来る」。そう思うようになりました。ドアをあけようとすれば、後ろからドアを支えようとしてくれる人が来る。エレベーターのドアを止めておこうと手を伸ばしてくれる人が来る。お店で何か取るのにもたついていれば、取ってあげようと思う人が来る。
何かするときにそう思っているようにしたら、差し伸べられた手にびっくりして慌てることも激減。

まったくもって、本当に世間には優しい人がいっぱいなのである。
そんなことがあらためて身にしみた一ヶ月。
ケガは体にはダメージだったけれど、ハートはむしろ癒されたかもしれません。