『男の出産』

男の出産―妻といっしょに妊娠しました (新潮文庫)

男の出産―妻といっしょに妊娠しました (新潮文庫)

妊娠・出産は21世紀の今でも女性しかなしえないイベント。どうしたって、関連書をものすのは女性ばかりになってしまいがち。そんななか珍しく男性が、夫の立場から妊娠→出産について書いたのが本書。著者は『天国の本屋』などでおなじみの松久淳

男性の妊娠・出産体験記となると、なんつーか「出産という偉業の前では無力な俺だけど、家事も育児もばっちりこなして、愛する妻と子どもをしっかり支えてやるぜ」てな感じの、厚生労働省から太鼓判押されちゃいそうなお父さんを思い浮かべるんですが、みんながみんなそうキラキラ輝いてるわけじゃない(もちろんそういうおとうさんは理想的で素晴らしいし、みんなそうあってほしいとも思いますが)。

著者は、子どもができたと聞いて、すぐに〈ナマ中出し遠慮なくできるのね〉と思ったり(註:妊娠中でもダメですよ)、出産立会いなんてしたらたぶんその後、妻の前で“役立たず”になっちゃうから絶対しないもんねと決意したり、まー反応が「高校生かよ!」ってツッコミたくなるくらいですが、これが男性の正直でリアルな感想だよなーと思うのです。

妻の変わりゆく体型や超音波で見た子どもの写真に戸惑うのも、むべなるかな。妊婦雑誌に載ってるおとうさんたちはそんな変化もむせび泣かんばかりに感動し、受け入れてたりするんだけど、この著者と同じ反応を示す人のほうがよっぽど多いのではないだろうか。そしてそんなプレパパたちを啓蒙すべく、妊婦雑誌には“理想のおとうさん像”である人々ばかりを掲載して「ほら、他のおとうさんたちはこんなに積極的なのよ! あんたも頑張って!」って腹ボテ奥さんにケツをひっぱたかれて、なんとか父親になる自覚を持っていく……ってところでしょうか。

でもいいんですよ、それで。そりゃこちとら四六時中×十月十日もの間、子どもを胎内で育ててるから、いやがうえにも自覚を持ちますけど、男性からすると「ほにゃ?」って感じでしょう、そうでしょう。でもそれなりに奥さんに付き添って戸惑いながら“その日”を迎えるのが自然なんです。その戸惑いこそがたいせつなんだよ、って思います。

著者も前述したアホな感想(笑)を持ちつつも、かなり熱心に奥さんと一緒に妊娠・出産について勉強していく。生まれてくるまで、いろいろなリスクを想定して悩んだり、生命の神秘に驚いたり感動したり。素直な反応がほほえましくもあります。

妊婦業界に跋扈する“理想のおとうさん像”についていけねえよ!っていうプレパパな方に、「おう、やっぱみんなそうだよな」と安心してもらえる1冊ではないでしょうか。当事者の妊婦が読むと「おいおいおいおい」ってツッコミどころ多数ですが(笑)。