番外編・日本語教師養成講座日記その2

石井千湖さま

 意地悪クイズ(笑)の回答、ありがとうございます!私も夏はほんとに苦手。断然冬の方が好きです。
『ちゃんと話すための敬語の本』、日本語を教えようという人間には必読!のタイトルですね。『切羽へ』もまだ読んでいないんですが、「標準語になったり方言になったりするところに仕掛けがある」って、そそられるなあ。
 方言と言えば、学校の最初の頃の授業で「教わる側の立場になる」ための実習というのがあり、中国の奥地の文字がない方言というのを習ったことがあります(ポピュラーな外国語だと生徒の中に知っている人がいるかもしれないので、学校側は生徒が絶対に知らない言語を持ってきて平等を図るんですね)。もちろん「直接法」で教わるので、一切日本語はなし。なんか楽しそうだなあなんて思っていたら、これがまあ大変だったんです。
 「こんにちは。私は北村です」と言うだけでも「えーと、“です”はなんだっけ?」というような具合。ペン、本、のような簡単な名詞でも日本語と何の関連付けもできないので、音をカタカナでノートに書くのだけど発音すると訂正される。指示は分かってるのに言えない、ということも度々ですごくもどかしい。90分授業を受けたら、こんなに疲れるのかというくらい疲れました。教える方も大変だけど、生徒だって全然楽じゃないんだなあと実感……この感覚を忘れずに授業してくださいね、という授業だったんですね。
 実習も今週で3週目になります。だんだん生徒の間にレベルの差というのが出てきて、出来る人が退屈にならず、かつ遅れている人が上達できるような授業をするにはどうしたらいいか? が悩みどころ。「それは誰のかばんですか」というような短い文でも助詞の使い分けが不安な人がいるのに、「私は日曜日に新宿で買い物をしました」というような文を言わせたい、となると、言えない生徒に時間をかけていいものかなあと毎回考えてしまう。
 明日も教壇に立つのですが、明日の私の担当は副詞4つ。「よく・ときどき・あまり・ぜんぜん」です。どうやって教えるか、というと、こんな感じです。
 まずカレンダーを4枚、ホワイトボードに貼ります。
 1枚はランダムに18,9個くらい○が付いたもの、もう1枚はその半分ほど(10個くらい)に○が付いたもの、もう1枚は3つくらいしか○が付いておらずその他の日付には×が付いたもの、そして最後の1枚は全部の日付に×が付いたもの。この他に4人の人物の絵カードと料理の絵カードを用意します(カード作りがこれまた大変なんだ……)。
 最初に「よく」を教えます。一番○の多いカレンダーの、○の部分を一つ一つ指しながら「田中さんは料理をします、しますしますします……」と言っていく。「します」がすごく多い、ということを示すんですね。そして最後に「田中さんはよく料理をします」、と「よく」の部分を強調しながら発話する。同様に「ときどき、あまり、ぜんぜん」を発話し、それをゆっくり、2回繰り返します(これがわりと大事)。
 肝心なのは「よく」と「ときどき」は語尾が「します」だけれど、「あまり」と「ぜんぜん」は「しません」だということ。新出語に語尾の変化が加わると、生徒にはかなり難しい。まず「します」の語尾になる「よく」と「ときどき」を定着させ、そのあとに「あまり」「ぜんぜん」をしっかり教えます。習ってきた動詞や名詞を変えて何度も言わせ、授業の最後に「ケイトさんは本を読みますか」「はい、時々読みます」のように自由にQ&Aをさせます。この活動をさせることに意味があるんですよね。実際の場面で使えて初めて言語はその人のものになるので。
 ではでは前回の答えです。
 おお、素晴らしい!(2)、正解です!
 「ない」は、4つに分けられます。1・イ形容詞、2・補助形容詞(おいしくない、など形容詞に付いて否定の意味にする)、3・接尾辞(他愛ない、など)、4・助動詞(ぬ、に置き換えられる)。
 (2)は助動詞、他の「ない」は補助形容詞です。
 それでは今日の意地悪クイズ。助詞の「が」についてです。
(1) 隣の庭で、シェパードが吠えている。
(2) 弟は子どもの頃からシュークリームが好きだ。
(3) 南側のバルコニーからは町の夜景がよく見える。
(4) 文房具が必要な時は、この引き出しを開けてください。
 それぞれの文中の「が」の中で、性質の違うものはどれでしょう。
 こうやってクイズを出していると、先生になった気がするなあ(笑)
北村浩子