番外編・日本語教師養成講座日記その3

石井千湖さま

ああ、またまた前回の日記から1か月も経ってしまった!ごめんなさい。書きたいことがどんどん貯まり、その分書けないストレスも溜まり……9月になって少し余裕が出てきたのでこれからまた書いていきたいと思います。
学校もいよいよ佳境、昨日は2回目の筆記試験でした。半年の講座の中で筆記テストが前・後期に1回ずつ、実技テストが後期に1回設定されているんですが、昨日のテストは「学習と教育の心理学」「言語と社会」など5区分でそれぞれ60点以上取らないと再試を受けなくてはならないので、かなりヒヤヒヤものでした。昨日の午後3時に試験が終わったのですが、再試決定なら8時までに連絡をしますと講師に言われ、気分を紛らわすために帰宅途中丸の内オアゾで散財し(笑)そのあと家でビールを飲みながら待っていたのですが、やったーっ!かかってきませんでした。「合格」ならかけてくれればいいのにね。いやどっちがいいんだろう。
とほっとしておりますが、まだまだ肩の荷は下ろせない。来週金曜日に恐怖の実技テストが待っているのであります。「○○すぎます」、「○○するつもりです」、「○○したことがあります」など6つの文型の選択肢の中からひとつ選んで初級学習者に教えるという設定のテストなのですが、たとえば「○○するつもりです」を選んだとするなら、「○○しようと思います」とどう違うのか、というところまで考えて授業しないといけない。あと1週間、頭を悩ませる日々が続きそうです。

さて、助詞の話。ほんとに助詞ってユニークなものですよね。文の味わい深さに関わってくるというか。その分、教えるのはものすごく難しいんですが、今回の実習でまさにそのことを強く実感した担当回がありました。

「昨日、私は新宿へ映画を見に行きました」
「昨日、私は新宿に映画を見に行きました」

「へ」と「に」。こういう場合、千湖ちゃんはどっちを使いますか? 「に」の方なんじゃないかな? 「新宿に行った」の方がなんか自然な感じがしますよね。「へ」は、「アメリカへ行った」とか、遠いところに行ったときに使うような気がする。と言っても、「アメリカに行ってきた」とも言うし、「去年アメリカ行ったよ」と省略することもある。じゃあ「へ」と「に」ってどう違うのか。

辞書には<「へ」は「に」と同様にも使う>と書かれています。厳密に言うと「へ」は方向を示す、「に」は動作の帰着点を表す格助詞。だから「新宿へ映画を見に行く」でも「新宿に映画を見に行く」でもいいわけです。だけど、活用範囲でいうと「に」の方が「へ」よりもずっと広くて、いろんな意味を持っている。なので私たちは「に」を使うことが多いんですが、初級者に教えるときは、活用範囲の広いものを先に教えてしまうと、本来の意味はなんなの? と分からなくなってしまいます。なので、方向を示すという(ほぼ)ひとつの機能しかない「へ」だけを使って教えよう、とクラスの仲間で決めたんですが、私の前の回に授業をした仲間が「新宿に行きました」とつい、何度も口にしてしまったのです。

そのくらいいいじゃん、と思いますよねー。でも、生徒にとってはこれがかなり大きな「?」になってしまう。私の担当回の文型は「○○(場所)へ△△(動詞)に行く」だったので、案の定生徒は「あれ?」という顔をしていましたが、こうなったら徹底的に「どこかへ行くときは「へ」が付くんだよ!」というオーラを出すしかない(笑)。「新宿へ!すしを食べに行きました」「渋谷へ!服を買いに行きました」と、人物と場所の絵カードを使って、強調しながら教えましたが、うーん、分かってくれたかなぁ……。

そんなこんなで毎回試行錯誤の授業だったわけですが、次回は「外国人にとって日本語のどんな音(おん)が発音しづらいのか」などについて書いてみたいと思います。

ではでは、前回の意地悪クイズの答え。助詞の「が」でしたね。
(2)という回答でしたが、残念!(1)なんです。「が」も「に」と同様、すごく使用範囲の広い助詞なんですが、この場合は「動作の主体」なのか「動作の対象」なのか、というのが違いのポイント。(1)は「シェパードが」という主体を表す「が」ですが、他の3つの「が」はそれぞれ、「好き」「見る」「開ける」対象を示しているわけです……と説明することで自分も理解できてありがたいです(笑)。

さて、意地悪クイズ3回目は「〜ている」の使い方について。

(1) あいつは根性が曲がっている。
(2) 彼は子供の時から痩せている。
(3) 彼女の才能はずば抜けている。
(4) 姉は6年前に盲腸の手術を受けている。

ひとつだけ意味の違う「ている」があるのですが、それはどれでしょう?
「ている」もたくさん意味があって面白いんですよー。回答、お待ちしております。

北村浩子