『声を聴かせて』

声を聴かせて

声を聴かせて

ずっと実用書や漫画にばかり偏ってしまっていて、子どもの出てくる小説に触れられてなかったのですが、やっと今回登場させることができました。ほっ。どうしても時間がないので、小説を読むのが難しいんですよねー。

朝比奈あすかは2006年「憂鬱なハスビーン」で群像新人文学賞を受賞して小説家デビューした、新鋭作家(2000年にノンフィクションを1冊刊行している)。この人、文芸誌を中心に積極的に活動しているのですが、まあとにかく女性心理(特にイヤーなやつの)を描くのが上手いんですよねー。デビュー作の主人公も高慢ちきで鼻持ちならないし。それがむしろ小気味いいくらいなんですが。

今回のこの本は表題作と「ちいさな甲羅」の2篇を収録。表題作は、とある母親が主人公。彼女の娘ははじめての出産を終えて、現在里帰り中。主人公は不慮の事故で幼い息子を亡くしているのですが、慣れない子育てに奮闘する娘を、かつての自分の姿に重ね合わせて回想するシーンが主となっている。この話、途中まではディテールがよく書けていて、とても好きだったのだけど、起承転結の「転」部分が個人的にはどーしても納得できず。うーん、そうきたかー……とちょっと残念。でもこういう話の運びを好きな人も多いと思います。ので、あんまりこの感想は気になさらぬよう。

2篇目の「ちいさな甲羅」がスゴかった。いわゆる幼稚園ママのお話。幼稚園での子どものトラブルなんて日常茶飯事なんだけど、それがママ友の交友関係にも暗い影を落とすことがある。ママ友内のリーダー的存在の顔色を伺いながらビクビクと過ごし、時には交友関係を優先するあまり、理不尽に子どもを叱ってしまうこともある主人公。このチキンっぷりがまーイライラするったらありゃしない!(笑) そして、登場するママ友同士の会話や気の遣い方がまどろっこしいうえにめんどくせーってウンザリ。と同時に、こんなことが我が身にふりかかったら……と想像するだけで、やっぱり自分もビクビクしてしまう←結局わたしもチキン。この話は表題作とは違って、「転」部分以降で俄然おもしろくなる(もちろんそれまでも面白いだけど)。「そこまでする!?」と嫌悪感のようなものを感じつつも、主人公に感情移入するのを止められない。そしてそして、こんな滑稽なほど息苦しい毎日が、まるっきりフィクションというわけでなくて、わたしたちのすぐ隣で起こり得る出来事だということが空恐ろしい。

著者は育児経験のある方なんだろうか。作品と作家本人は切り離して考えなければならないけれど、やっぱり気になるー。