PS アイラヴユー(08/米)

<ものがたり>
NYの狭いアパートでは今日も今日とて夫婦喧嘩。NYっ子のホリー(ヒラリー・スワンク)と生粋のアイルランド野郎のジェリー(ジェラルド・バトラー)だ。一目惚れで劇的に結婚した二人だったが、最近は不協和音。とはいえジェリーの陽気な性格ゆえか、すぐ仲直り。そんな二人に突然悲劇が訪れる。ジェリーが脳腫瘍でこの世を去ったのだ。ただひたすら泣き崩れ、引きこもるホリー。彼女の30歳の誕生日に母と親友たちがホリーを訪ねると、バースデーケーキが届く。同封された録音機のスイッチを押すと、懐かしいジェリーの声が!驚くホリーと一同が聞いたメッセージとは、「これから僕から手紙が届くので、そのとおりに行動して欲しい。」というものだった。予想もしなかった出来事に困惑するホリーだったが、やはり嬉しい。次々に届く手紙には、まるですぐそこで見守っているような言葉がしたためられていた。手紙に元気付けられ、徐々に社会に戻ろうと努力するホリー。何通目かの手紙には、友人たちと自分の故郷アイルランドを訪れるようにと、既に旅行の手配までしてあったのだが…。

作り手にとっては「新境地を拓いて欲しい」
役者にしてみれば「今までのイメージから抜け出したかった」
という思惑もあったんだろうけど、だからといってやっぱりイメージってもんがあるだろう!
<特に観客には

赤フンマッチョのスパルタ王とトレーラーハウス出の女ボクサーの泣ける純愛(しかも難病もの)

100歩譲ってバトラーの方はまあなんとか陽気でエネルギッシュ過ぎるアイリッシュ男に見えなくも無いが、スワンクはねえ…。この人今までも”金持ちの謎めいた絶世の美女”(『ブラック・ダリア』)とか、かなり無理目な役をあてがわれていたのだが、演技力(と観客の想像力)だけじゃどうにもならない壁というものは存在するのである。最初の喧嘩シーンなんて、怒鳴り声と怒りの表情(特にスワンク)が凄すぎて、微笑ましい夫婦喧嘩にはとても見えず、いつ殴りあいの肉弾戦になるのかハラハラした。
<まあ結局は別の肉弾戦に突入してやっぱりスパルタ王だと思ったが

こんなオープニングのパワフル若妻から、一挙に”悲劇の未亡人”へと豹変するスワンク…になってないよ!(^^; 確かに落ち込んではいるんだけど、その落ち込み方が違う。やっぱり「試合に負けた」か、下手したら「殺されて捨てられた」ぐらいのどす黒いオーラばりばり。キャシー・ベイツ(母役)でさえ慰められないのも無理は無い。

これ、主役二人以外のキャスティングも変なんだよねえ。親友の一人がジーナ・ガーション(おしどり夫婦役でかなり謎)とか、カラオケバーに行っても歌わないハリー・コニックJrとか。しかしそれよりもすごいのが隠れていたのである!…が、それはのちほど。

原作は世界中で読者大泣きのベストセラー!ってふれこみだけど(未読ですいません)、死んだ男から「新しい服でも買って外に出ろ」とか「カラオケに行け」とか指図されて大喜び!ってどうなんだ。当然のことながら”死後届く手紙”にはなんらスーパーナチュラルな要素はなく、身内が託されてただけ。そして郵便受けで配達のおじさんを食い入るように見つめる健気な妻…には全然見えず、スワンク、激しく睨んでます。<ここ相当怖い  親友達とアイルランドへ行けったって、仕事休めない人だっているだろうにかなり勝手(さすが王)。そこでわがまま(且つもしかしたら相当凶暴)な妻の面倒見てくれだなんて言われても付き合いいいなあ。ジーナ・ガーションなのに。<?

カラオケの想い出のシーン、スパルタァアアア!!な感じで精力的に歌い上げるレオニダス、いやさジェリーが、妻が歌わないもんだから「やー、うちの奥さんはガッツが無くてねえ」なんて挑発するんだけど、スパルタ王が満足するほどのガッツは女性には必要無いのでは?(^^; それに挑み返した(このパターンばっかり。やっぱ闘ってるよこの人達は!)妻は、またいらぬ色気をふりまいた挙句流血沙汰。この病室シーンが『ミリオン・ダラー・ベイビー』のラストへと続きます(ウソ)。

しかし一番問題なのは、女3人アイルランド旅行のシーン。手紙のとおり地元のパブに行った一行は、バンドで歌っていたイケメン(注:3人曰く)のウィリアムに目が釘付け。女2人はホリーをたきつけナンパさせるが、想い出の曲を聴いた彼女はいたたまれずその場を後に。翌日、湖にボートを出し、釣りをする一行。ベタな展開でオールを流し、湖上を漂っていたところを、湖上保安員(?)もやっていたウィリアムに助けられる。お礼を兼ねて夕食に呼んだ猛禽系女子3名は、酔わせるわ風呂に入れるわと、ホリーのためにお膳立て。その甲斐あってか、風呂上りのウィリアムの全裸をガン見するホリー。ロマンチックに抱き合う2人…の、華奢で繊細で乙女チックなパフスリーブのフレアワンピースを着たホリーの上腕にはぶっとい力こぶが!!!この映画の一番の敗因は、スワンクの衣装が全てグッドガール路線だったことでは!と確信するに至った瞬間!!ロングのストレートにはリボン、ふんわりブラウスに上品な丈のスカートなど、あの不敵なガッツありすぎの面構えであれらの衣装は無い!!<断言
その後、ベッドインした超好みのウィリアムは実はジェリーの幼なじみで、腕枕をされて夫の想い出話を聞くという、これまたトホホな展開だったにも関わらず、「パフスリーブに力こぶ」にはそれがふっとぶほどのインパクトがありました。

とにかく事あるごとに「ジェリーはこんなにも素敵だったのよ〜」とホリーの妄想炸裂。カラオケ屋でリベンジのシーンなんか、客席にたった一人居るジェリーに見つめられてたり。そこには彼女お手製のメモリアルボックス(お骨入りか?)を載せてて、この女、結構怖いと思う…。

ラストは予想通り、最後の手紙で「君を好きな男と付き合え」。前からヒドイ目に合わせていたハリー・コニックJrを呼び出すホリー、はまあいいとして、それ、相手に読ませるかなー。読まされた身にもなれっつーの!(^^; 絶対断れないじゃんアイルランドかスパルタの呪いがかかりそうで(笑)。

体感時間3時間強(実質2時間)。やっぱりキャスティングは「意外性」だけでやっちゃアカン、という好例(?)の映画であった。

あ、書き忘れるとこだった。もう一人の意外すぎる凄いキャスティングとは、イケメンで優しくて歌も歌えて全裸ヌード(背面)もOKなアイルランド人のウィリアム役は、なんとウォッチメン』(09/米)のコメディアンでした!マジびっくり。<事後(?)だからいいか(笑)