『スーサイド・マーダー』(2008/米)

スーサイド・マーダー [DVD]

スーサイド・マーダー [DVD]

監督 : アーマンド・マストロヤンニ(←まさかあの一家と関係あるのか??)
主演 : クリスタル・バーナード

<ものがたり>
作家志望が集うサークルの批評会で辛辣な言葉を浴びせられ、落ち込むジュリア。一度は短編で賞を取り、版元から前金をもらったものの、次回作が書けずにスランプに陥っていたのだ。サークルの友人アンジェラから、他には内緒で読んでほしいと原稿を渡される。気のりせずに読み始めると、自殺を装って殺人を犯し続ける男の独白を綴ったサイコ・スリラーだった。作品の素晴らしい出来に驚嘆と共に嫉妬するジュリア。その頃アンジェラは秘密の恋人に殺されていた。現場を調べた警察はガス自殺だと断定したが…。

この脚本家と監督は土曜ワイド劇場のファンだと思う(しかもユルいやつ)。

…と一行で感想を終わらせたいところですが、実質80分強、体感時間4時間半の、あらすじを読んだだけでオチまで簡単に予測できるサスペンス度マイナス150%のミステリ映画。でもラストのあるシーンだけ妙にスットコだったんで記録に残します。

まず主人公ジュリア役の女優からして安さ爆発。「マドンナそっくりさん大会」とかデパートの屋上で開催したらいそうなタイプ。サークル仲間の原稿を読んでる最中に(都合よく)嵐が! ローソクを灯して食い入るように読みながら「おそるべき傑作だわ…」って声に出して言う主人公。まさに視聴者が皿を洗っててもわかる演出! 一方ガスマスクを付けたカレシに襲われるアンジェラ。カレシ(犯人)はテープで窓に目張りをし、ドアにタオルを挟んで逃げるんだけど、テープにアンジェラの指紋残ってないし。CSIが調べたら一発で他殺判定間違いなし。

アンジェラの訃報を聞いたジュリアは、視聴者の100%察しがつくように、担当編集者マーゴに自分のと偽り原稿を提出。その約1分後には大ベストセラー記念パーティが!(この○○記念パーティってのも土曜ワイドで大変好まれるシチュエーション) しかしその爆発人気のミステリーのタイトルは『由々しき悪行』…なんか自費出版みたいなセンスなんですが増刷に次ぐ増刷なんだとか(棒読み)。続編を書けという担当に「次の作品はヒストリカル・ロマンスが書きたいって言ったじゃない!」って…主人公、一体どんな短編で入賞したんだ。

会場で他の人気作家たち(ドン、キャサリンミランダ)、イケメン敏腕編集者(多分そういう設定)のトレント、カリスマセレブ広報などに紹介され、これからそのメンツでサインツアーを始めると知らされる。この老若男女利害関係あり的なメンバー構成こそが2時間サスペンスの王道!名取裕子がツアーガイドやってても違和感無いぞ!! 更に“たまたま出版社に知り合いがいた刑事”まで出てくる親切設計。いつ誰が死んでも大丈夫!そんな会場に「俺が聞いた話を本にした作家はどいつだ!」と、精神病院で他の患者から聞いているのを天井からスパイしたと電波系のオヤヂが乱入するも、つまみ出されてその場は収まる。

ホテル・ルーズベルトに泊まった一行。(この後、事あるごとにこのホテルの看板が大写し。やはり2時間ドラマの“協賛”なのか?) 部屋まで送ってくれたトレントに「好きな作品は『チャタレイ夫人の恋人』なの」と迫って外したジュリア。高級ホテルの薄い壁越しから聞こえる鳴り止まない電話に、隣室のセレブ広報の安否を気遣い関係者を呼ぶと、浴室に彼女の死体が!状況からやはり自殺ということで落ち着いたが、1件目もこれも誰も動機を気にしてないのが謎。

「小説と全く死因が同じなのよ」というジュリアの言葉で件の刑事は一応不審に思い始めるが、「例え死人が出てもツアーは続けるわ!」という担当の鶴の一声でサインツアー続行。普通は関係者が不審死を遂げたら止めるんじゃね?しかも国内だしさ〜、という常識は2時間サスペンスでは通用しない。葬儀場でいきなり「私は少女時代、母親に虐待を受けているという友人の言葉を信じて、二人でその親を殺したの」とジュリアに告げる老女流作家キャサリン。なぜそのタイミング。

ホテルに戻ると、部屋には創作サークルのビリーが待っていた。「君の才能じゃあれは書けない」と、盗作疑惑でゆすりを匂わせて去ったビリーに言われるがまま、指定された家にジュリアが赴くと、そこにはビリーの首つり死体が。<もう全然驚かない  ここまで続くと刑事も(ふと考えると、この現場一体どこ?管轄は??)、「君の小説第12章と同じだ!」と気づく。章まで覚えてるとは恐るべき読み込みぶり。仕事してるのかお前は!

今度は、連続事件を宣伝に使おうとする担当マーゴが血祭りに。高級マンションの部屋からジュリアの眼前に墜落。<やはり  そんなことがあっても出版社パーティは予定通り決行。社長が申し訳程度に追悼を述べる途中、うんざりしたジュリアが会場を抜け出すと、またもやあの電波系オヤヂが乱入!(どんだけセキュリティが甘いんだこの会社は) ジュリアが危ない!と探しに行くトレントとキャサリン

一方、最初の事件に戻りアンジェラの謎の恋人を探し当てた刑事は、乗っ取られたIDを見て犯人はトレントだとわかる。(と思ってなかった人はどのぐらい居たのか!) 本性を現したトレントはジュリアを会場ホテル地下に監禁。「治療として精神分析医に書かされた犯行実録をアンジェラは勝手に君に見せたんだ。俺の原稿だ!!!」<いつの間にか原稿ということに  つまりそれじゃ飽き足らずに電波系オヤヂに本当に語っていたという無駄に複雑な設定。ダクトテープでジュリアの手足を椅子に縛り付け、「君が連続殺人犯で、最後自殺を遂げたことにする。遺書を書け」って迫るんだけど、テープの痕とか何も考えてないんですけど。今まで捕まらなかったのは偶然としか思えない。

そしてクライマックス。ノートに遺書を書くジュリアに、

「何だこれは!内容もひどいが字も汚い!」
「陳腐な出だしだ!」
「もっと感情を込めろ!!」
「まだ書けないのか! 作家のくせに締切も守れないのか!!!」

といきなり編集者魂炸裂で、何度もダメ出しで書き直させるトレント
そんな悠長なことしてる場合か!!(笑)

案の定、遺書にやっとOKが出たので毒を注射されるところ、間に合ったキャサリントレントをブチ倒す! 反撃を受けたキャサリンに代わり、見つけたドライバーでトレントをメッタ刺しするジュリア。<ここだけやたらとホラー描写  やっと安心した途端に、血まみれで起き上がるトレント。<これまた全然驚かない展開   そこに刑事到着。射殺して終了。

後日談として、トレントは14歳から殺人を犯し続けていたそうですが、上記のようにザル並の計画的犯行なので、やはり今まで運が良かったとしか思えないのでありました。ラスト、残ったツアー仲間とトレントの葬儀に出席するジュリアが、棺を覗くと死んでいるはずのトレントの目がカッと開く!恐怖の叫び声を上げるとそれはジュリアの夢だった…というあまりにも劣化パクリなシーンで終わるものの、なんたって連続殺人で射殺された犯人がこんな普通にお葬式できないだろ!と誰しも気づくので、オマケの夢落ちさえも無駄に終わるのでした。完

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