『ツーリスト』(2010/米・仏)

パリのカフェ、一人の美しい女を数人の男が遠くから見張っている。メッセンジャーが手紙を届けに来る。最初から見張りに気づいている女は謎めいた微笑で手紙を焼き捨て、席を立つ。男達は慌てて女を追いかけるが、地下鉄でまんまと逃げられる。

という、パリ警視庁によるドタバタ尾行にびっくりさせられるオープニング。あんな大勢なんだから、はなから一人ぐらいギャルソンに変装するとか、逃走経路になりえる地下鉄入り口で見張ってろよ!

予告編では明らかにサスペンス系だったのが、全米公開した後、なぜかゴールデングローブのコメディ部門の作品・男優・女優にノミネート、という前評判(?)にウソ偽り無し。

謎の美女ジョリーに翻弄されるアメリカ人旅行者デップが、自身にふりかかる数々の試練をいかにくぐりぬけ、ラストには驚愕の事実が!って売りだったんだけど、なにせデップが4・5割引(当社比)ぐらい必要以上にダサいのはどうしたもんやら。ファンじゃない私でもこりゃ気の毒だと思った(笑)。

ジョリーがデップに目を付けたのは、国際指名手配犯の愛人アレクサンダーから、自分と似た背格好の男を捕まえて、追っ手をかく乱してくれ、とのミッションが出たため。逃亡するために原型を留めないほど整形したっていう設定なんで、一体どれがアレクサンダーなのかっていうのがクライマックスで盛り上がるはずなんだけど、どう考えてもコイツしかいねーよ!としか思えず、そして案の定そうだったという緊張感の無さ。このユルさは何かに似ている…と思ったら、そうだ!2時間サスペンスじゃん!!!w

そのワイド感(笑)に一役買っているのが、ラングドン教授シリーズのような風光明媚な逃走ルートと警察のダメっぷり。あまりにもどんくさく尾行に失敗するパリ警視庁に、ジグソーパズルが捜査の最重要項目になっているスコットランドヤード。<しかも自席からロシアンマフィアに電話する奴が存在するコンプライアンスの低さ  そしてずさんすぎるイタリア警察といい、どこもかしこも意図的にギャグ風味。まるで浅見光彦の正体を聞いてびびる田舎警察のようで、故水野晴郎先生が観たら絶対に怒ると思います(笑)。

最も問題なのがスコットランドヤードポール・ベタニー(『レギオン』に続きスットコ御用達街道まっしぐら)。こいつの指揮力のひどさがまさに人災。劇中、「だからアメリカ人は!」っていう台詞が頻発するんだけど、欧州各国警察の扱いといい、このドイツ人監督フロリアン・ヘンケル・ドナースマルク(これでも略名らしい)は海外旅行かなんかでいやな思いでもしたんじゃないんだろうか。ドイツ警察は出てこないのでw

緊張感が無い割には意外に人が死に、無責任に映画は終わって文字通り開いた口がふさがらなかった私。同監督の前作『善き人のためのソナタ』の貯金がマイナスに。現在も劇場公開中ですが、数年後のTV欄は是非これで行って欲しいと思う。ていうか、それ以上何も無いし!w

『ツーリスト』(地上波初登場) − 謎の美女から逆ナンパ!パリからヴェニスへ華麗なる逃避行!ジョニー危うし!豪華ホテルの一夜の顛末は?