“ダメな2枚目”を見守る愉悦 <一場の豹変を待ち続ける 2.>

イケメンウォッチャー(純イケメンから逆イケメンまで、気になる選手を語る)

すっと墨でひいたような眉と一重の目元の整った面立ち。
一場にはどうも、<イケメン>というより、和風に<二枚目>という言葉を使いたくなるのです。

<二枚目>って、元々は歌舞伎から出たものなんですね。
その歌舞伎の中での二枚目に、<つっころばし>と呼ばれる役柄があるのをご存知でしょうか。
遊郭にはまって身を滅ぼす若旦那、なんて類の、ちょっと肩でも突かれたら、へなへなと転んでしまいそうな、か弱い優男(やさおとこ)。大概育ちのよいぼんぼんで、わがまま言ったりすねたりしても、どこか物腰におっとりとした色気と笑いを誘うような無垢さがあって、意気地も甲斐性もないのになぜか愛されたり、庇(かば)われたり、と、まあそんな役どころ。

追い込まれて泣き眉になった一場を見るたびに、なぜかこの<つっころばし>という言葉が脳裏をかすめていくのです。
もちろん、「そういえば学生時代、謹慎中のはずなのに*1いつの間にか結婚してたっけ…」とかそういう件ではなくてですね、あくまで野球選手としての彼の話。
弱いダメ男と知りつつ憎めない存在。その、弱さダメさを気に掛かけずにいられない存在。そこがダブってしまうのでしょうか…。
しかし、野球は弱さ儚さの美に酔う芝居ではありません。いや、芝居だって毎度<つっころばし>ばかり見せられていたら、飽きるにきまっています。なのに…。
一場ウォッチャーは飽きずに彼を見守り続けてしまうのです。
<ある日突然、投げる度にすごいピッチングを繰り広げるようになる一場>を、待ち続けてしまう
のです。

彼は、いいピッチャーに変われる<素養>を山ほど持っています。いいピッチャーに変わったときは、そりゃあもうカッコイイに違いない…と思わせる<華>を持っています。そして、彼には、いつの日かいいピッチャーに変わるんじゃないか、と期待させる、不思議な<崖っぷち運>があります。

ドラフト指名される年。降ってわいた大騒動の主となってしまった一場*2。六大学のスターの座から転げ落ち、確実視されていた某在京人気球団入りはご破算。
かろうじてイーグルスに入団できたものの、みちのくの新参球団はどん底の弱さ。彼の成績も、5月には早や、0勝7敗。その時はどうしたって、「一場って運が無い…」ように見えました。

ところがどっこい

暗黒・最弱の時代が続くかと思われながら、仙台ファンは温かく、さらにはパの他球団ファンの同情票も集まって、イーグルスはあれよという間に大人気。
そして野村御大の登場で、いつの間にか実力の方も上昇の一途という、先の楽しみに満ち溢れたチームに大変身。イーグルス入団は不運どころか大幸運でした。
弱いチームだったおかげで、コントロールとハートに難があって負けだすと止まらない投手なのに、少しでも機会があれば先発のお呼びがかかる。
しかもですよ、もうこれが見限られる瀬戸際、最後のチャンスって登板になると(ペナントも既に終盤の9月頃)、目の覚めるようなピッチングを数回するわけです。
これやられるとね、フロントもベンチもファンも、「今度こそ、来期こそ大化けか?!」って、つい思っちゃう…。何度でも、思っちゃう。

特に野村監督は、口は厳しくとも滅多なことでは選手を見捨てない、温情の人。一場にはまだまだチャンスが来るでしょう。

まったく、「何言ッてんだよ!」と力む松岡修三に、*3見せたくなるくらいの、<崖っぷち運>の持ち主なんです、一場って。

<続く>

*1:…ちょっとした騒動があって…脚注2参照

*2:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%80%E5%A0%B4%E9%9D%96%E5%BC%98

*3:ご存知、とは思いますが…。ロッテの五輪応援CMです。http://www.lotte.co.jp/entertainment/tvcm/080460_30/index.html の、崖っぷち編ですね。映像はこちら→http://lotte60.jp/tvcm/tvcm.html?PHPSESSID=18e403c11b532d8669311ca284bb45ea