『ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ―ハイテク海洋動物学への招待 』(佐藤克文/光文社新書 [315])

ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ―ハイテク海洋動物学への招待 (光文社新書)

ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ―ハイテク海洋動物学への招待 (光文社新書)

 ながらくさぼっててすみません。これからは計画的に、ぼちぼちと更新しようと思います。あらためましてよろしくおねがいいたします。

 さて、『ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ』がおもしろいよ! 第24回・講談社科学出版賞を受賞しておめでたい!
 この本を読むと、いままでアザラシとかペンギンとかカメとか、海に生きるほ乳類・鳥類・は虫類のこと、ぜーんぜんわかってなかったんだなぁということがわかるよ。図鑑あるじゃんというなかれ。それは海の動物を「海にあるがまま」描いたものではなく、「陸にあがってる」姿だけを見て描かれてるんだ。
 ペンギンが海の中でどのように泳いでいるのか、どんなえさをとってるのか、そんなことさえちっともわかってなかった。観察が難しいからだ。海の上からのぞいてるだけじゃわかんないからだ。ところが、ハイテク機器が海の動物が「動き回ってるところ」の記録を可能にした。動物じたいにカメラや加速時計をとりつける。えさとかとって、戻ってきたところをつかまえて、機材を回収、データを分析する。こんな手法で得られた新事実の数々が明らかにされている。

 ペンギンは、海の中を翼を広げてグライドというか、滑空(?)するように泳ぐらしいよ。まるで鳥みたい!(アレ?) アザラシは300メートルも息を止めてもぐってエサをとってるらしいよ! 著者曰く、ようやく海の生き物は「博物学」の黎明にさしかかったところなのだって。海の動物については、まだ「シートン動物記」時代なんだ! 退屈なわけないじゃん!

 ところが、いくらハイテク機器だからといって人間様がラクをできる訳じゃない。その取り付けや回収にはさまざまなノウハウがあり、ときには思ったようなデータがとれないこともしばしばだ。そこは創意工夫と根性と、でなんとかしていくのだ。人間くさいというか、手作り感あふれる、体当たりの研究なのだ。海岸を寝ずの番でカメの帰還を待ち、南極で300キロものあざらしをどうにか転がして機械をとりつけるコツを体得する。ただの「研究成果発表」じゃない。まさに人の血肉の通った「発見」であり、それを著者とおなじ視線で体験することができる、それが本書のいちばんの醍醐味だ。

 最終章ではじつはそれまで読者をちょっと騙していた謎解きもあるし、かなーりシャレた名台詞もある。知的興奮を得るために本を読む同志は、ぜひ自分で読んで、「体験」してほしい。こんな研究者が同時代にいることに、ちょっと感謝したくなるよ、きっと。