魅惑の不条理 ―クライマックスシリーズ―
ウチスタ(部屋観戦でドキドキする)
クライマックスシリーズ(以下“CS”)第1ステージが終わりました。
もうすっかりこのシステムの楽しみ方を会得したパ・リーグファン。リーグ優勝のライオンズを惜しみなく称えたあとは、CSに進めたチームは「さーて、ここからもうひと踏ん張り…」と、惜しくも進めなかったチームは「来年ウチが出たときは…」と、それぞれの思いを胸に、この短期決戦を観ていることでしょう。
おや?
もしや、未だに「この制度は理不尽だ」なんて、興ざめな気分だったりしてらっしゃる?
もし、そうだとしたら、はっきり申しましょう。
「あなたの思考回路と、ワクワク探しセンサーは、かなーり硬直しちまっておりますよ!!」 と。
実は、私も当初は「そんな得体の知れないやり方持ち込んで、だいじょーぶかよ、おい…」と思ったりもいたしました。でも、この仕組み。野球発祥の地で生まれただけあって、魚の身をきれいにいただいた後に、骨酒・ヒレ酒にして最後の一滴まで味わい尽くすかのような楽しみ方ができるシステムだったんですな。
アメリカは広くてチーム数が多いから有効だけど、日本のようにチーム数の少ないリーグでやるのは意味がない…という意見があります。
ところが、違うんだなあ、これが。
今年のパのラスト数試合を見た方はおわかりでしょうが、3位争いと最下位争いの試合の白熱ぶりを思い出していただきたい。このシステムなら、たとえ上位4チームが勝ち抜き戦に残るという決まりになっても、今度は下位2チームにならないためのデッドヒートが生まれるでしょう。
もしアメリカで、メジャーがア・リーグ、ナ・リーグ各地区でリーグが分かれてしまったら、もはや無意味と、プレーオフを止めてしまうでしょうか?
いえいえ。断言します。たとえチーム数が激減しようと、絶対に、彼らがこの楽しみ方を止めることはないでしょう。
シーズン1位だったチームに一番価値があるから、そのチームが日本一を争えなくなるケースが出るなんて理不尽、という意見もあります。これが一番多い反対理由でしょうね。
でも、これも長年の習慣で染み付いた思い込みです。
シーズン1位の価値が劣るということではありません。それはそれ、これはこれ、ということです。
ペナントレースを勝ち抜く持久力と、短期決戦を勝ち抜く瞬発力。どちらも、その力に秀でている者は魅力があるわけです。マラソンと100m走、好みはあるでしょうが、どちらかの勝者がもう片方の勝者よりも価値があるというのはナンセンスでしょう。それと同じことです。
例えば、日本でのスキーの複合競技。かつて、ジャンプでトップに立っても距離で必ず順位が急降下していた頃は、複合競技の選手は、純ジャンプの選手より下のように見られてはいなかったでしょうか。純ジャンプに行くほどの飛翔力が無いから複合なのではないか、というような見方です。でも、その後、そういう相対評価は誤解だということがわかったではありませんか。複合の荻原選手とジャンプの船木選手、どちらが上だとか、どちらの金メダルの方が価値が高い、なんて比較は無意味ですよね。
およそ、球技の世界では、ほとんどの競技でリーグ戦とトーナメント戦を組み合わせた大会が行われています。多くの競技でプレーオフがファンを熱狂させています。日本のプロ野球のペナントレースの方が、特異だったといってもいいくらいかもしれません。
CSは運の要素が多く、ペナントレースの方がチームの真の実力が出るのだ、という考えもよく聞きます。
しかし、よく考えてみれば、その<チームの真の実力>ってヤツも得体の知れないものではありますまいか。
年間通してであれば、お得意さんチームの有無などといった怪しげな相性や、ホームグラウンドの広さなども関係するし、一番重要な、良い選手を集める力についていえば、結局は財力の差が大きくものを言うことが多いわけです。<チームの真の実力>には明らかに不公平な要素がからみます。プレーオフは、<勝負運>という要素が大きくなることで、この不公平さを緩和させるのです。
秘かにアンフェアを内包する長期リーグ戦より、むしろ、短期決戦の方が、その時ベンチにいた選手の<運を手繰り寄せる力>、度胸と技と頭脳が試されるという意味で、より純粋な<実力>が表に出るとさえ言えるかもしれません。
まあでも、要は、どっちが優れているなんて価値観は、見る方向が変われば違ってきてしまうことに過ぎないということです。
そして、そんな不安定な価値観に縛られなければ、このシステムのもたらすワクワク感も十分に堪能できるってことです。
もしCSが無かったら、今年のパ・リーグは、ほとんどのチームのファンが前半でペナントレースの興味を失っていたことでしょう。マリーンズもバファローズも、とてもこんな後半の巻き返しをする気力は出なかったに違いありません。イーグルスだって大詰めの大健闘は生まれなかったでしょう。CSという希望の道ができたから、上位と下位の差が年々詰まって、全ての順位争いが白熱してきたことは、疑う余地がないのです。
さあさあ、もっとアタマと心を柔軟にして、このスリリングで魅惑的な不条理劇の行方をお楽しみあれ!