『私は赤ちゃん』
- 作者: 松田道雄
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1960/03/17
- メディア: 新書
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皆様、明けましておめでとうございます(遅)。
なんと前の更新が昨年11月30日付け……やっぱり子どもが成長するにつれ、全然時間が取れないもんですねー。読書量も月2冊ペースとかになってます、とほほ。
しかも、なんとなく子育てにも慣れてきたせいで、育児関連書を読まなくなってきたこともあり、思いきりネタ切れ状態であります←手の内明かしすぎ。でもまあ、思い出しつつちょぼちょぼ書いていきます。
きょう紹介するのは、これまた名著中の名著『私は赤ちゃん』。著者は育児界の泰斗・松田道雄先生でございます。もう私は『育児の百科』を読んで信者と化してしまったので、今回もべたぼめであります。
1959年(!)に朝日新聞で連載していた育児コラムを新書にしたもの。60年代の岩波新書なんて書き下ろしばかりなんだろうと思ってたので、ちょっとびっくり。
「私は赤ちゃん」というタイトルどおり、〈私〉なる生まれたての赤ちゃんの目を通して見た、育児のちょっとヘンなところ、いいところを指摘する物語仕立ての内容。冒頭は〈私はおととい生まれたばかりである。まだ目は見えない。けれども音はよく聞こえる。この産院でおこるいろいろのことも、気配でわかる。〉と『吾輩は猫である』風のオープニングで、こういったちょっとしたユーモアを交えて描かれている。新聞向けに書かれたこともあって、一事が万事、とても読みやすい。
たとえば、家族旅行へ出かけた次の晩、興奮のせいで眠りが浅く、何度も夜中に目覚めてしまう〈私〉を見て、〈パパ〉と〈ママ〉は「病気じゃないかしら?」と心配して病院に連れて行こうとしてしまう。〈「ちがう、ちがうんです」〉と泣いて訴えても逆効果。なんていうちぐはぐなやりとり。傍から見てると「まあそういうこともあらぁなあ〜」と思えるんだけど、当事者になると「すわ病気? 頭打った? ナニゴト?」とパニックに陥ってしまうんだよねえ。
そこに近所の奥さんやお医者さんや保健婦(当時)さんが登場してきて……という見開きで1話分の連載短編小説のよう。松田先生が京大出身であり、またこの話が大阪版に連載されていたこともあって、登場人物が京都弁や大阪弁を操っているのも、ふつうの新書や育児書と毛色が違っておもしろい。
とはいえ50年も前に書かれた話なので、どうしても今の厚生労働省などからの指導とは違う内容が書いてある。しかし、松田先生のスタンスはやっぱり不滅! 時代は高度成長期ど真ん中で、家電の進化に伴い、主婦は新たに生まれる余暇時間の分だけ子どもに構いすぎてしまう“育児過剰”に陥ってしまうのではないかと警鐘を鳴らしています。
そこで先生が唱える〈赤ちゃんをうまく育てるコツ〉とはずばり〈危険の起こらない条件を用意しておいて捨て育ちにする〉こと! 〈捨て育ち〉! なんてステキな響き!(笑)
以下ちょっと長いのですが、心に留めておきたい文章を引用して終わりにしたいと思います。ちなみに私が買った本は2008年11月14日付けの第76刷。50年間の長きにわたる支持を集めている理由は、この心の持ちようにあると思います。
捨て育ちにするということは、人間の悟りのようなもので、なかなかむずかしいものです。初心の親は、赤ちゃんを上手に育てようと思って熱心になりすぎて、かえって失敗します。子供を大きくしていくものは、子供をとりかこむ環境です。親もまた、この環境の一部でしかありません。環境がゆたかに子供を抱きかかえ、その中で親と子との通り路が開通しているというのが一ばん自然です。親が子供にかまいすぎると、子供に必要な自然の環境を失なわせ、異常な成長を強いることになります。