わたしの人形は良い人形?
- 作者: 岸本佐知子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2008/05/07
- メディア: 単行本
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どれにしようかなあとぐずぐず迷っている間に、「子どもは本じゃ育たない」や「トヨザキ社長の駄々な日々」でも『変愛小説集』が取り上げられました。「まる呑み」大人気(笑)。
全部“すっげえイイ”ので、とりあえず「書評王の島」でだれもふれていない作品にしてみますね。A・M・ホームズの「リアル・ドールズ」。妹のバービー人形とひそかに愛をはぐくむ男の子の話です。
古くから人形愛を描いた作品はいくつもあります。特に最近のラブドールの写真なんかを見ると、人間そっくりでありながら人間にはない美しさがあって、「人でなしの恋」にはまるのもわかるような気が。自分の理想の女性像を投影できる上に、歳をとらず、いったん手に入れてしまえば貞淑で、面倒くさいこともいいませんしね。
ところが「リアル・ドール」の語り手“僕”がつきあっているバービーは、口をきくし動きます。しかも子供用玩具のくせにビッチ。いつも一緒にいるケン(人形)に太腿をすりすりされながら、“僕”に意味深な視線をおくり、声までかける。“僕”はそのままバービーを外へ連れ出したものの、緊張のあまり彼女の足首をつかんで、アイスキャンデーのように持ち歩いてしまう。その上、何を話せばいいかわからなくて、
「ええと、で、きみは何バービーなの?」
と訊く。バービーにはいろんな種類があるから。初デートで、いきなり相手が人形だということを意識させるような質問をするわけです。
「あたし、トロピカルよ」あたし、トロピカルよ。まるで“あたし、カトリック系よ”とか“あたし、ユダヤ系よ”みたいな感じで彼女は言った。「ワンピースの水着にヘアブラシ、それといろいろにアレンジできるパレオもいっしょについてきたの」
バービーの答えにも笑いました。人形を人間扱いして愛するんじゃなくて、いかにも玩具っぽいプラスチックの肌の“リアル・ドール”といちゃいちゃする。そこがこの小説の面白さかなと。“僕”の妹とバービーのハードSMな関係も、“僕”とバービーとケンの3P(!)に発展するところもすごい。ある意味子どもらしい初恋の話なのに、文部科学省は絶対推薦しない、グロテスクな展開が魅力です。
自分が子どもの頃した人形遊びのことも思い出します。私が持っていたのは、童顔の日本版バービー一体だけ。あやまってストーブに髪の毛がはりついてしまい、残念なヘアスタイルになってしまいました。友達の家で遊ぶときはマイ人形を持っていけないので、着せ替え人形で代用。「Yちゃんは体が分厚くていいなあ、私は紙やけんねー」とか頭悪いことをいって笑われましたっけ。そういえば、Yちゃんは後に盗んだバイクで走りだし、私は家出資金2,000円を貸したんでした。まだ返してもらってません……“ねにもつ”タイプです。
次は北村さんがオススメの本、できれば新刊を紹介してください。
石井千湖