番外編・日本語教師養成講座日記その1

石井千湖さま
 うあー、すみません!気づけば1ヶ月以上も空いてしまった。これじゃ「ラリー」になってないね。ごめんなさい。
 なんだかんだと言い訳する代わりに、これから数回、「日本語教師養成講座日記」と題してちょっと書いてみたいと思います。今年4月から通い始めてそろそろ4ヶ月。「仕事減らしてまでなぜ」と言われましたが、実は20代の頃から憧れていたんですよ。プラス、40数年原付の免許すらなく生きてきた人間なので、なにかひとつは資格・検定の類のものを持っていたいなあという気持ちもずっとあって。(←と、ここで文章を止めるとanan風になるのはなんでだろう)。
 先週からは、講座の山場とも言える教育実習が始まりました。8人の成人外国人(全員日本語超初心者)に2ヶ月間、週3回ほど教えるのですが、私たちがこの3カ月習ってきた教授法は、媒介語を一切使わず日本語だけで教える直接法。はじめまして、おはようございます等々の挨拶から始めて「これ、それ、あれ」「この、その、あの」(←この区別が難しい!)などを使った文型や、形容詞(おいしい、大きい、いい等)、動詞(書きます、聞きます、読みます等々)を教えていくという流れなんですが、実はこのとき、文型も品詞も注意深く選んでいかないと、日本語が母語の人間には気づかない混乱が生まれてきてしまう、らしいのです。
 たとえば、形容詞には二種類ある。いわゆる形容詞と形容動詞(「い」で言い切るものと、「だ」「です」で言い切るもの)。学校ではイ形容詞・ナ形容詞と言っているのですが、この二つを同時に教えてはいけない。活用の仕方が違うからです。
 過去形が「〜かった」となるのはイ形容詞、「〜だった」となるのはナ形容詞。「きれかった」という間違いは、「きれい」はナ形容詞なのにイ形容詞的活用をさせてしまうことによって起こります。「広いだった」というのはその逆。でもすごくよくある間違い。
 また「大きい」と「大きな」、「おかしい」と「おかしな」というような、ほとんど同じじゃん? と思える言葉も、実は品詞が違ったりします。前者はイ形容詞、後者は連体詞。似ているからといって一緒に教えてしまうと、後で混乱してしまう。「活用と接続」はどの言語でも難しいので、なるべく一緒のものを教えよう、というわけです。
 外国人の間違いのよくある例として「私はいいと思うです」なんていうのがあります。これはどうしてダメなのか、と言えば「動詞に“です”は付かないから」というのが一番シンプルな答えですが、ルールは最初にしっかり教えておかないとずっとそのままで行ってしまうことも多いので、品詞に加え動詞の種類(大きく分けて3種類あります)は、いちいち確認しながら教えなきゃいけないんですね。
……とか何とか偉そうに言ってますが、アナウンサーだし他の人よりちゃんとした日本語教えられるかもー、なんて自惚れていた私は、最初の数日間の授業で自分がいかに日本語(の正確なルール)を知らなかったかを知り、かなり衝撃を受けたのでありました。そんな衝撃の一端をこれから書いていきたいと思います。
 では最後にクイズ。
 以下の文章の「ない」が他の品詞と異なるものをひとつ選びなさい。
(1)あまり寒くない。
(2)今日は行かない。
(3)お金がない。
(4)それほどきれいではない。
 えー、これから毎回クイズで終わろうと思うので、次の日記はぜひ回答からお願いします(笑)。
北村浩子